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 Review No.016  for Opera
 2006.07.01 16:00   Salamanca Hall, Gifu
 Prague Chamber Opera     - Martin Otava, director
          Orchestra & Chorus       - Martin Mazik, conductor
出演: プラハ室内歌劇場  演出:マルティン・オタヴァ  
プラハ室内歌劇場管弦楽団&合唱団  指揮:マルティン・マージク 

ヴァチェスラフ・ポチャプスキー(ザラストロ)
ダグマル・ウ゛ァニュカートウ゛ァー(夜の女王)
アレシュ・ブリスツェイン(タミーノ)
ヤルミラ・バクソウ゛ァー(パミーナ)
フランティシェク・ザフラドニーチェク(パパゲーノ)
演奏会場: サラマンカ・ホール(岐阜県岐阜市)
演目: モーツァルト: 歌劇「魔笛」  Wolfgang Amadeus Mozart: "Die Zauberflöte" Kv.620

<子供たちが大喜びのウィーン・フォルクスオパーでの「魔笛」>

ナマの「魔笛」を見るのは2回目で、1回目はウィーンへ行った時のフォルクスオパーのマチネー公演で、20年も前のことでした。ネクタイをしたり、着飾ったドレスを着た子供たちがたくさん見に来ていました。大蛇の出現やパパゲーノのユーモラスな演技に大喜びしていた子供たちの様子が目に焼き付いて、強く印象に残っています。あの時は、もちろん日本語字幕はなく、細かなあらすじも知らずに見ていましたが、今回は前もってCDを聴いたり、モーツァルトとフリーメースンとの関わりについて、多少なりとも予備知識を得て公演に臨みました。

<注目のプラハ室内歌劇場>

プラハ室内歌劇場による「魔笛」はプラハで5年間も上演が続き、その演出を手がけたのがチェコを代表する演出家のオタウ゛ァです。室内歌劇場の立ち上げは1965年で、68年の「プラハの春」の後、国立歌劇場に所属しましたが、政府の助成金が打ち切られ、経済危機に陥ります。2002年にディレクターとなったオタヴァは、外国からのゲストを含め、いい歌手には、それに見合ったギャラを支払う一方、必要な人材を絞りこみ、外国公演も含めて年に100回を越える公演を行うまでになったそうです。この日本公演にはチェコを代表する歌手が参加し、オペラの楽しさを味あわせてくれました。
公演チラシより
<主な登場人物プロフィール>

*タミーノ(テノール):王子。パミーナに憧れ、ザラストロから救い出すため試練を受ける。 *パパゲーノ(バリトン):鳥を捕まえて生活する陽気で愛すべき俗人。 *夜の女王(ソプラノ):夜の世界を支配する女王。娘を奪われた哀れな母親と思いきや第2幕では悪の象徴に‥。 *パミーナ(ソプラノ):夜の女王の娘。タミーノと恋に落ち、彼と試練をともにする。 *ザラストロ(バス):古代エジプトの神に仕える高僧。パミーナをさらった悪者のはずが後に徳の高い叡智の人に‥。 *パパゲーナ(ソプラノ):パパゲーノの恋人で歳は18歳2分。最初は老婆の姿で現れる。 *モノスタス(テノール):ザラストロに仕えるよこしまなムーア人。後で夜の女王に寝返る。 *3人の侍女:夜の女王に仕える。タミーノを大蛇から救い、夜の女王に引き合わせる。 *3人の童子:タミーノを神殿に案内。その後も要所に現れ、ストーリーを導く。

<コンサートホールで見るオペラ>

昨年10月(コンサートレビューNo.1)以来のサラマンカホールですが、パイプオルガン付きのコンサートホールでオペラがどういう形で上演されるか、メルヘン的なモーツァルトの魔笛がどのように演出され、歌手は、オーケストラはどうかと興味は尽きませんでした。このホールにはオーケストラピットがないためか、舞台左側1/4とパイプオルガンがある2階のバルコニーを使ってオーケストラが配置され、残り3/4にセットが組まれていました。両脇にはエジプト風の神殿の柱が立ち、奥は2階建てで、その下には3つの扉があるだけで、簡素な舞台装置でした。向かって右側に椰子の木があり、唯一自然を表しています。縦書きの字幕表示盤が左右ともに配置され、ホールがこじんまりしているため、見やすく、歌やセリフの内容がよくわかりました。
公演チラシより
<序曲〜タミーノ、パパゲーノ、夜の女王の登場>

スロヴァキアの俊英マルティン・マージク(イケメン!です)のきびきびした指揮で序曲が始まりました。舞台の1/4からのオーケストラは音が良く聴こえ、とくにバルコニーに配置されたトランペットの音がよく響いてきました。声楽が入ってからのバランスの良さも特筆すべきものでした。第1幕は大蛇に追われて王子タミーノが逃げて来て、気を失うところから幕が開くのですが、この演出では大蛇は姿を現わしませんでした。倒れているタミーノを白い服に黒いドレスを着た夜の女王の侍女3人が助けます。パパゲーノが登場し、お馴染みのアリア「私は鳥刺し」を陽気に歌います。鳥籠を背負ったパパゲーノは、予想に反し意外とまともな衣装でした。タミーノは侍女たちから夜の女王の娘パミーナの肖像画を見せられ、恋心をかき立てられ、アリア「何と美しい絵姿」を情熱を秘めて歌います。そして独特の髪形、袖には星や月の飾りを付けた夜の女王が現れます。その登場の仕方は演出家の腕の見せどころで、宙づりになって天井から下りてきたり、迫りに乗って舞台下から上がってきたりと様々あるようですが、今回は会場がコンサートホールということもあって、何の演出 もなく残念でした。夜の女王はザラストロに奪われた娘の救出をタミーノに託し、アリア「恐れるな若者よ」を切々と歌います。この難しい役をプラハ国立歌劇場のトップソリストが歌ったのですが、ソプラノのハイトーンの技巧は見事でした。

<楽しさにあふれた重唱アンサンブル>

夜の女王が姿を消し、タミーノ、パパゲーノと3人の侍女によって五重唱が面白楽しく歌われます。パパゲーノはタミーノを助けたのは自分だと嘘を言ったため、侍女から口に錠前をつけられていて、「ウ!ウ!ウ!ウ!ウ!ウ!ウ!」としか歌えません。もう嘘はつかないことを約束させられ、錠前を外してもらいます。その掛け合いは楽しくユーモラスでした。そしてタミーノは魔法の笛を、パパゲーノは魔法の鈴(グロッケンシュピール)を与えられ、パミーノを助けるためザラストロの神殿へ向かいます。3人の侍女が「アウフィーダーゼン」と別れを歌う音楽は味わいがあります。

<変身も良し悪し>

神殿ではパミーナを3人の奴隷に連れて来させ、真っ黒な顔の奴隷頭モノスタトスが迫ります。そこにパパゲーノが現れ、コミカルな雰囲気になります。モノスタトスとパパゲーノはその奇妙な姿に、お互い悪魔と思って逃げ出すのですが、その様子は笑いを誘います。そしてパパゲーノとパミーナが出会い、二重唱「愛を感じる人には」で恋の楽しさと幸せを歌います。第1幕のフィナーレで3人の童子に導かれ、タミーノ登場。面白かったのは、先ほどの侍女が黒いドレスを脱いで、白いアラビア風モンペ姿の装いで童子に変わることです。そしてその脱ぎ捨てられた3体の黒いドレスは鎧のように並んでいて、そのまま舞台装飾品となっていました。1ヵ月にわたる日本公演において3人のボーイソプラノを確保するのは大変で、簡素で無駄を省いた演出の智恵と言えましょう。しかし、ただでさえ、筋書きがやややこしいのに、変身されると、夜の女王の手先である侍女が天使のような童子と同じ人物に思えてしまい、ますます頭が混乱してしまいます。

<グロッケンシュピールによる天空の音楽〜第1幕フィナーレへ>

タミーノは3つの扉のうち、左右の扉を叩くと「下がれ」の声。真ん中の扉を叩くとそこから僧侶が現れ、ザラストロが悪魔ではなく聖者だと知らされます。「パミーナは生きている」という啓示を受けたタミーノは神に感謝し、魔法の笛を吹くと、パパゲーノの笛が聞こえてきます。パミーナとパパゲーノが逃げ出し、追っ手に捕まりそうになりますが、パパゲーノが魔法の鈴(鍵盤付きのグロッケンシュピールで演奏されていました。)で天空の音楽を奏でると、モノスタトスたちは、その美しい調べに踊りながら退散していきます。非常に面白い場面で、まるでオペレッタを見ているような感じがします。行進曲とともにザラストロが僧侶たちを従えて登場し、タミーノを捕えてきたモノスタトスの下心を知って、罰に鞭打ちの刑を与えます。タミーノはパミーナと一緒になるために試練を受けることになって、第1幕を閉じます。

<第2幕の舞台、夜の女王の超高音域アリア>

第2幕では舞台上のセットが少し変わって、両サイドにピラミッド、中央に柱がセットされ、椰子の木が真ん中に位置を変えています。また侍女たちの脱いだ黒いドレスが3体並んでいました。ザラストロが男性合唱を伴い「神よ聞き給え」を厳かに歌います。この役はロシアのボリショイ劇場からの客演で、声量のある声は印象的でした。童子3人は再びドレスを着て、侍女に変身し、タミーノとパパゲーノを誘惑し修業を妨害しようとします。モノスタトスがパミーナに近づこうとしてアリア「誰でも楽しく恋が」を歌います。なかなか歌うのが難しそうで、伴奏のオーケストラとズレが生じていました。そこに夜の女王が現れ、パミーナにザラストロへの復讐を命じるアリア「わが怒りの火は」を激しい感情を込めて歌います。夜の女王が登場する場面は全体を通してあまり長くないのですが、このオペラの多彩な登場人物のなかでは、パパゲーノとともにもっとも印象に残る役だと思います。この公演でのコロラトゥーラソプラノは、CDでの超高音域を駆使する有名歌手に引けを取らないすばらしいアリアを披露してくれました。
公演チラシより
<パパゲーナ登場、タミーノとパミーナは水と火の試練へ>

試練を受ける2人のところに腰の曲がった老婆(パパゲーナが変装)が登場します。一方、パミーナはタミーノが無言の行に入ったのをふられたと思い、失恋の嘆きと死の決意を込め、アリア「幸せは永遠に帰らず」を歌います。タミーノを見失ったパパゲーノが金も財産もいらない、かわいい恋人か女房がいればいい‥とグロッケンシュピールを伴ってアリア「恋人か女房が」を軽やかに歌います。そこに老婆が再び現れ、渋々愛を誓うと若いパパゲーナに一変し、また姿を消します。3人の童子がパミーナの自刃を救い、タミーノの愛を告げます。タミーノとパミーナは、魔法の笛の力で水と火の試練をくぐり抜けて行きます。その際、青や赤の照明の色がパイプオルガンのパイプに映り、意外な効果をあげていました。

<パパゲーノの自殺未遂〜パパゲーナとのコミカルな二重唱>

一方、パパゲーノはパパゲーナを探し疲れて絶望し、首吊り自殺を試みます。未練がましくステージ前面に座り聴衆に向かって、自殺を思い留まるように言われれば止めると言い、その合図に「1、2、3」と、鳥寄せに使う牧神(パン)の笛を吹くのですが…。(笑い声はするものの)聴衆は何も言いません。パパゲーノは仕方なく椰子の木に縄をかけて自殺しようとします。このように聴衆の反応も劇に折り込んで台本が書かれていたとは驚きです。もう駄目と思ったところにパパゲーナが現れ、人生捨てたもんじゃない、子供をたくさんつくろうと「パ、パ、パ」の二重唱が歌われます。そのコミカルな掛け合いは聴いている方も楽しくなってきます。

<ハッピーエンドで幕>

試練に耐え、タミーノとパミーナ、パパゲーノとパパゲーナの2組の男女は晴れて夫婦になります。復讐に現れた夜の女王とモノスタトスは雷鳴とともに永遠の闇の底に落ち、ザラストロを讃える声が響いてこのオペラは‥幕‥となります。この室内歌劇場の声楽陣には名の聞こえたスターこそいませんが、会場がこじんまりしていることもあってどの役も声はよく聴こえ、三重唱や五重唱でのアンサンブルの良さには感心しました。

<フリーメイスンと魔笛>

近年、モーツァルトとフリーメイスンとの関わりについて研究が進んでいます。フリーメイスンについては秘密結社ということから、特に日本では悪いイメージがありますが、慈善、友愛を旨とする成人男性だけの閉鎖的な団体です。信仰、集会、結社の自由がなかった時代に誕生したため、秘密の厳守を誓わされ、閉鎖的な組織にせざるを得ませんでした。モーツァルトの時代には中世以来の古い社会システムと、全てが前向きで先進的な啓蒙主義とが並存し、軋みを起こしていました。その当時の文化人にとって、フリーメイスンになることは流行の先端を行くことであり、貴族や宮廷要人とネットワークを作る重要な手段だったのです。「魔笛」の台本を書き、興行主、歌手でもあったシカネーダーはフリーメイスンでしたが、モーツァルトもウィーン時代の1784年に啓蒙主義的なロッジ(フリーメーソンが集う場所を意味する)に入会します。その儀式は門外不出ですが、モーツァルトが死の2ヵ月前に作曲した「魔笛」には、儀式も含め多くの点でフリーメイスンの要素が散見されます。その筋書きそのものがフリーメイスンの人間形成の過程を見せようとするもので、タミ ーノの試練の場は入会式の試練と問答にあたると言われています。椰子の木や神殿などエジプトの風景や3人の侍女、3人の童子、3つの扉など至るところで出て来る3という数字もフリーメイスンのシンボリズムと言われています。音楽上では基本的な調性が変ホ長調=♭♭♭で3を意識し、壮大かつ柔らかく温かい感じで、「人間的なもの」と関連づけられています。こうした謎めいたことを考えながら「魔笛」を見て聴くことも楽しみ方のひとつと言えるでしょう。

<余談ですが‥>

このオペラで印象的だったのはグロッケンシュピールで、その不思議な音に魅了されました。ところで近代において、この楽器を使用したものとしてシベリウスの交響曲第4番イ短調が思い浮かびます。暗い色調の曲ですが、終楽章で使用されるこの楽器の明るい音はミスマッチに思え、何かミステリアスでもあります。そしてシベリウスもフリーメイスンだったとのことから、グロッケンシュピールが何らかの鍵になっているのでしょうか?


《参考にしたモーツァルト オペラ「魔笛」(全曲)のCD》

☆ オトマール・スウィトナー(指揮)ドレスデン国立歌劇場管弦楽団&ライプチヒ放送合唱団
テオ・アダム(ザラストロ)、ペーター・シュライヤー(タミーノ)、シルビア・ゲスティ(夜の女王)ほか
[BMG/RCA CLASSICS 74321322402]
☆ ニコライ・アーノンクール(指揮)チューリッヒ歌劇場管弦楽団&合唱団
マッティ・サルミネン(ザラストロ)、エディータ・グルベローウ゛ァ(夜の女王)、バーバラ・ボニー(パミーナ)ほか
[TELDEC/WPCS‐11932/3]

(2006.08.09 UP)
 
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