ミスター・アートのコンサート&CDレビュー♪
ミスター・アートのプロフィール INDEX へ戻る ミスター・アート宛て E-Mail
 Review No.019  for Concert
 2006.09.15 18:45   Shirakawa Hall, Nagoya
 Central Aichi Symphony Orchestra - Chosei Komatsu
                                Subscription Concert No.81
 Yuji Ishikawa, Cello
出演:  小松長生指揮 セントラル愛知交響楽団 (第81回定期演奏会)

 石川祐支、チェロ

演奏会場:

 しらかわホール、名古屋

プログラム前半: エルガー作曲 2つの小品から 「朝の歌」 作品15-2
                  Edward Elger: "Chanson de matin" op.15-2
エルガー作曲 チェロ協奏曲ホ短調作品85
                 Edward Elger: Cello Concerto in E minor op.85
プログラム後半: エルガー作曲 愛の挨拶 作品12
                 Edward Elger: "Salut d'amour" op.12
エルガー作曲 エニグマ(謎)変奏曲 作品36
            Edward Elger: Variations on an Original Theme for orchestra, op.36 ("Enigma")
アンコール曲: エルガー作曲 エニグマ(謎)変奏曲から 第9変奏「ニムロッド」
                  Edward Elger: "Nimrod" from Enigma-Variations
セントラル愛知交響楽団<しらかわホールとセントラル愛知、小松長生について>
しらかわホールは名古屋の中心街、伏見に民間生命保険会社が建設し、運営する収容人数700名の音楽専用ホールです。セントラル愛知の演奏会をこのホールで聴くのは今回が2回目でした。前回聴いた演奏会は3年前に遡り、飯森範親の指揮によりチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」やカバレフスキーのチェロ協奏曲等が演奏されました。熱演ではありましたが、1983年に発足したプロのオーケストラにしては、技術的にまだまだ未熟という印象でした。今回は、2004年に音楽監督に就任した小松長生の指揮によるオール・エルガープログラムということで久しぶりに聴きに行きました。私が小松さんの指揮するオーケストラを初めて聴いたのは、1993年3月、サントリーホールでの日本フィルの名曲コンサートでした。オルガン側のP席で聴いたアメリカのポピュラー名曲(バーンスタインの「キャンディード」序曲やジョン・ウイリアムズの「スターウォーズ」組曲など)の明快で活き活きとした演奏は今も強く印象に残っています。

<シューボックス型コンサートホールの宿命?>

さて、この日は当日券でしたので、サイドバルコニーのC席(2千円)しかありませんでした。その席は向かって舞台の右側で、指揮者や独奏者を真近に見下ろすことができるのですが、席の前の欄干がちょうど邪魔して、非常に見にくいところでした。さらにシューボックス型のコンサートホールの宿命かもしれませんが、席は舞台や1階平土間方向に直角に固定し設置されています。席の配置をもう少し工夫できないものでしょうか?もう20年も前になりますが、ウィーンのムジークフェラインザール大ホールのサイドバルコニー席に座ったことがあります。その椅子は固定式ではなく通常の椅子で、舞台の方に向いて座ったことを覚えています。日本でもシューボックス型のホールが増えてきていますが、やはりこのしらかわホールのような視覚を軽視したレイアウトになっているのでしょうか?

Sir Edward Elgar (1857-1934)<エルガーとキャロライン夫人>

エドワード・エルガー(1857〜1934)はイギリスの平民で、ピアノ教師などで生計を立てながら、独学で作曲を学びました。認められるようになったのは比較的遅く、「エニグマ変奏曲」(1899年)、「威風堂々」(1901年)によって、一躍イギリスを代表する作曲家となりました。エルガーの才能を早くから信じ生涯を通して篤く支えた人物がいました。エルガーが31歳の時、出会った8歳年上のキャロライン・アリス・ロバーツです。エルガーは彼女にピアノを教えていたのですが、彼女から自作の詩「愛の恩寵」を送られ、エルガーは「愛の挨拶」を贈り、結婚しました。生涯良い伴侶だった彼女に関わりの深い作品を、今回のエルガープログラムで聴くことができました。

<愛らしい小品「朝の歌」>

前半のプログラム最初の曲、「朝の歌」の原題は”Chanson de matin”とフランス語で表記され、「夜の歌」”Chanson de nuit”とペアになっている作品です。もともとヴァイオリンとピアノのために書かれた愛らしい3分ほどの小品で、オーケストラ版は1901年に初演されました。ここでの演奏は、まだ弦楽器が揃うに至らず、技術的にもっと精度が欲しいところ。。

<エルガー最期の大作 チェロ協奏曲>

この曲は1919年、エルガー62歳の円熟期の作品で、彼は当時既に2つの交響曲などの作品により近代イギリス音楽界最大の作曲家としての地位を確立していました。全体は4楽章構成で調性はホ短調をとっています。初演は友人で、作曲時に技術上の助言を行ったフェリックス・サモンドをチェロ独奏者として、作曲者の指揮ロンドン交響楽団により行われました。この時のロンドン響のチェロパートのメンバーに若いチェリストがいました。1965年、ジャクリーヌ・デュ・プレを独奏者としてロンドン交響楽団を指揮し、この曲を録音したジョン・バルビローリその人です。第1楽章 Adagio/Moderatoは、J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲を想わせる荘重な前奏に始まります。エルガーはこの部分を「ノビルメンテ(高貴に)」と指示しています。はじめは憂鬱な空気が漂いますが、続く主部は第1主題、第2主題ともにロマンチックな味わいを持っています。終結部のティンパニは芯のある音を出し、オケも覇気のある演奏でした。チェロのピチカートで第2楽章 Lento/Allegro moltに休止なしで入るのですが、この部分はそのリュート風の独特な響きが印象的なところです。チェロが活躍するところで、速いパッセージの部分はチェロの魅力が十二分に発揮されます。第3楽章 Adagioは独奏チェロが静かに叙情味を漂わせ聴かせます。第4楽章 Allegroは第1楽章の陰鬱な空気と活気が交錯し、チェロと最弱音でのオケの伴奏により第3楽章の静寂が再現されます。そして第1楽石川祐支章冒頭のテーマとこの終楽章のテーマによる短いコーダで締めくくられます。

<チェロ独奏者;人は見かけによらぬもの…>

チェロ独奏がすばらしい出来だったと思います。ニワトリのトサカのような髪形に少し茶髪でヤンキーな感じの風貌ですが、人は見かけによらぬもの…。緊張感に溢れ、チェロが私の席に近いこともあって、音がよく聞こえ、暗く重々しい表現のパートはじっくり聴かせました。後で分かったのですが、前回聴いたセントラル愛知の演奏会でカバレフスキーのチェロ協奏曲を熱演した独奏者と同一の人でした。

<馴染みの「愛の挨拶」>

後半プログラムの最初に置かれた「愛の挨拶」は、1曲目の「朝の歌」の演奏に比べて弦が揃うようになり、馴染みのメロディーが心地よく聴けました。ただ弦楽器にもっと艶が欲しいところです。どちらかと言うと管弦楽編曲のものよりも、ヴァイオリン独奏+管弦楽編曲の方が魅力的だと思います。


<エニグマ変奏曲・各変奏のあらまし>

イニシャル付きの謎かけの表題を伴って、エルガー本人と夫人・・そして彼の友人たちとブルドックが、14の変奏曲により、その特徴を捉らえながらユーモラスに描かれています。
〔主題〕 アンダンテ 弦楽器で静かに演奏される主題は、やや哀愁を込めて始まります。
エルガー夫人〔第1変奏〕 C.A.E.:Carolyn Alice Elgar(キャロライン・アリス・エルガー)エルガー夫人の肖像画。夫人はその人柄を示すように優しさと温かみをもって穏やかに示されます。
〔第2変奏〕 H.D.S‐P.:Stuart‐Powell(H.D.ステュアート・ポウェル)室内楽仲間のアマチュアピアニスト。ヴァイオリンのせわしないテンポに乗って、主題が低弦で示される短かい変奏です。
〔第3変奏〕 R.B.T.:Richard Baxter Townshend(リチャード・B・タウンゼンド)笑わせるのが得意なアマチュア役者。低い声から裏声への突然の跳躍などが弦のピチカートとオーボエによってマズルカ風に変奏されます。
〔第4変奏〕 W.M.B.:William M.Baker(ウィリアム・M・ベイカー)精力あふれ豪放な田舎の大地主。トランペットとティンパニなどで示される活発で非常に短い変奏です。
〔第5変奏〕 R.P.A.:Richard P.Arnold(リチャード・P・アーノルド)有名な詩人の息子。うわの空の夢見心地で自分の世界に浸るかと思うと、突然快活になる様子を描いています。ゆったりとしたテンポで始まり、低弦とホルンが示すメロディーは「ボルガの舟歌」を思い起こします。何度か出て来るフルートなど木管の軽快で愛らしいメロディーが印象的です。
〔第6変奏〕 Ysobel:Isabel Fitton(イザベル・フィットン)アマチュアのヴィオラ奏者。エルガーにヴァイオリンを習ったのですが、ヴィオラに転向したので、ヴィオラが活躍します。
〔第7変奏〕 Troyte:Arthur Troyte Griffith(アーサー・トロイテ・グリフィス)議論・口論好きな建設家。嵐のような攻撃的な気性がティンパニと金管と弦楽器により特色のあるリズムが刻まれます。
〔第8変奏〕 W.N.:Winifred Norbury(ウィニフレッド・ノーべリー)典雅な老婦人。中間部では貴婦人たちの優雅なおしゃべりと笑い声が木管によって表されます。
〔第9変奏〕 Nimrod:August Jaeger(アウグスト・イェーガー)エルガーを支えた出版社の社員で、よき相談相手だった親友。Nimrodは旧約聖書に出て来る狩人ですが、Jaegerはドイツ語で狩人を意味するため、ニックネームとして使用されています。物静かで誠実な紳士を描き、穏やかな美しさに溢れ、もっともよく知られている変奏です。
〔第10変奏〕 Intermezzo.Dorabella:Dora Penny(ドーラ・ペニー)間奏曲:いつも言葉つきが愛らしく言いよどむ若い女性の様子をオーボエとクラリネットで表しています。愛称ドラベラは、モーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」に登場する人物に由来しています。
〔第11変奏〕 G.R.S.:Dr.George Robinson Sinclair(シンクレアー医師)愛犬ブルドック「Dan(ダン)」が堤をかけ下りて川へ飛び込む様を描写したといわれています。目まぐるしいテンポによって金管、ティンパニと弦合奏で表現されます。
〔第12変奏〕 B.G.N.:Basil Nevinson(バジル・ネウ゛ィンソン)室内楽仲間のチェリスト。チェロのソロに始まり、チェロと弦楽合奏により内省的でノーブルな雰囲気が示されます。
〔第13変奏〕 Romanza.☆☆☆ 記号は「不在」を意味し、この変奏の中でメンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」の旋律が用いられていることから、作曲当時オーストラリアへ航海中だった Lady Mary Lygon(メアリー・リゴン)と推察されています。最弱音のヴィオラとクラリネット・ソロは海原に浮かぶ汽船の中の婦人に思いをはせるシーンを示しています。
〔第14変奏〕 Finale.E.D.U.:(”Edu”Elgar)終曲。エルガーの自画像。エルガー夫人は彼を「エデュー」の愛称で呼んでいたそうです。行進曲風に始まり、第1変奏C.A.E.や第9変奏Nimrodなどが回想風に現れ、オルガンも加わったコーダで輝かしく曲は閉じられます。

<長らく縁のなかった「エニグマ変奏曲」>

この曲の名前はずいぶん前から知ってはいたのですが、どういう訳か、これまで私には縁のない曲でした。1970年代前半にサー・チャールズ・グローブスとBBC交響楽団が名古屋で演奏会を持ち、この曲がメインプログラムになっていました。食指は動いたのですが、交響曲ではなく、「エニグマ(謎)」という奇妙な名前の変奏曲が、なぜメインプログラムなのか?と、結局その演奏会には足を運びませんでした。この曲のCDは持っていましたが、じっくり聴くことはありませんでした。2004年6月、大植英次指揮ハノーファー北ドイツ放送フィルの演奏会において、アンコールに演奏された曲のひとつが、この「エニグマ(謎)」の第9変奏Nimrod(ニムロッド)でした。その何とも言えない叙情味あふれる穏やかな曲想は強く印象に残りました。そして今回のセントラル愛知の定期演奏会において、やっとナマで全曲を聴く機会が訪れたというわけです。

<セントラル愛知の演奏と今後望むこと>

「エニグマ」変奏曲は、有名な第9変奏Nimrod(ニムロッド)以外の変奏にも独特の個性があるのですが、セントラル愛知はその様々な変奏を充実した演奏で描き出していました。メリハリの効いたダイナミックでスピーディーな演奏は指揮者によるところ大だと思います。オケは金管、木管ともに堅実な響きで、打楽器、特に第7変奏Troyte(トロイテ)でのティンパニの乱れ打ちはバシッと決まっていました。第13変奏Romanza.☆☆☆ ではクラリネットソロの背後で小太鼓の響きのような音が聞こえてきました。しかし小太鼓を叩いている様子はなく、よく見てみるとティンパニを小太鼓のバチでたたいていたのです。オケの編成はホルンが4本、トランペットが3本等と管はそこそこの数なのですが、弦の数は見た目にも少ないことは明白です。また独奏のヴィオラ、チェロにはもっと豊かな響きが欲しいところです。この曲は本来オルガンが入るわけですから、パイプオルガンが備わっているもう少し大きなホールでやってほしいものです。以前このオーケストラを聴いた時と比べると、技術的には格段の進歩が感じられ、特に管楽器は堅実な響きで安心して聴くことができした。これから必要なことは弦楽器の拡充、潤いのある響きと余裕かなと思いました。アンコールは「威風堂々」第1番を予想していましたが、外れで再度「エニグマ」変奏曲からNimrod(ニムロッド)が演奏されました。エルガーの世界にどっぷり浸った一夜となりました。
(2006.10.31 UP)


《参考にしたCD》

ジャクリーヌ・デュ・プレの名前を冠したハークネス社のバラ
♪ エルガー 2つの小品から「朝の歌」 Op.15‐2

☆ サー・エードリアン・ボールト指揮
  ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
  [EMI CLASSICS CDM 7 64013 2](1967年録音)
♪ エルガー チェロ協奏曲ホ短調 Op.85
☆ ジャクリーヌ・デュ・プレ、チェロ
  サー・ジョン・バルビローリ指揮
   ロンドン交響楽団
  [TOSHIBA-EMI TOCE‐7222](1965年録音)
♪ エルガー 「愛の挨拶」 Op.12
☆ ギル・シャハム、ヴァイオリン
  オルフェウス室内管弦楽団
  [DG UCCG‐3157/8](1995年録音)
♪ エルガー 「エニグマ」変奏曲 Op.36
☆ サー・チャールズ・マッケラス指揮
  ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
  [HMV 5 72138 2](P:1986年)
☆ サー・エードリアン・ボールト指揮
   ロンドン交響楽団
  [EMI CLASSICS CDM 7 64015 2](1970年録音)

 
<<< 前へ INDEX へ戻る 次へ >>>
 
Copyright(C): 2005-2007  Mr.Art & SINFONAIR  All rights reserved Since 2005.11.19
Background-image of this page: appears courtesy of The Heart of Eternity