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 Review No.021  for Concert
 2006.11.26 14:00  Aichi Art Center Concert Hall, Nagoya
 Royal Concertgebouw Orchestra - Mariss Jansons
アーティスト: マリス・ヤンソンス指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(アムステルダム) 名古屋公演
演奏会場: 愛知県芸術劇場 コンサートホール
プログラム前半: ドヴォルザーク作曲 交響曲第9番ホ短調作品98 「新世界から」
プログラム後半: ストラヴィンスキー作曲 バレエ音楽「春の祭典」
アンコール曲: ブラームス作曲 ハンガリー舞曲第6番  ドヴォルザーク作曲 スラブ舞曲作品72-7
コンセルトヘボウでのマリス&RCO<P席でマリスとコンセルトヘボウの演奏を聴くことに‥>
一昨年秋に来日した時、ブラームス交響曲第2番の忘れられない演奏を聴かせてくれたマリス・ヤンソンスとロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団(アムステルダム コンセルトヘボウ管弦楽団という名前の方がしっくりくるのですが‥)が「新世界」と「ハルサイ」を演奏するとあって、発売開始と同時にチケットを「ぴあ」で購入しました。マリスが今年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに登場したこともあって、チケット料金ははね上がり、5月下旬発売の日に何とかB席(1万3千円)の予約ができました。しかし席の位置は自分では選べず、オーケストラの後ろで、オルガン側の席(いわゆるP席)を指定されました。チケットを買うのに座席の指定ができないのはおかしなことだと思います。

<オケの後ろから見る編成と独特なチューニング>

当日は、日曜午後のマチネーでしたが、ぎりぎり開演5分前に着き、ちょうどオーケストラの団員が出て来るところでした。チケットは完売とのことで、1階〜3階の正面の席はうめつくされていました。私が座ったオーケストラの真後ろの2階1列目の席からは手にとるように楽器の配置が見えました。第1ヴァイオリン 16、第2ヴァイオリン 14、ヴィオラ 12、チェロ 10、コントラバス 8の2管編成で、ホルンは第2ヴァイオリンの後ろに4本並んでいました。体を乗り出して覗きこまないとコントラバスと打楽器は見えません。このオーケストラのチューニングには特徴があります。オーボエ奏者が立ち上がって振り向き、まず金管側に向かって吹き始め、それから弦楽器のチューニングを行って全体へと移っていくのです。もう30年ほど前にハイティンクと来日した時とまったく同じ光景に懐かしさを感じました。

<熱いものがこみあがってきた「新世界から」>

第1楽章はチェロによる瞑想的な気分を漂わせた旋律に始まり、ホルン、木管の響きの後、ティンパニも加わって荒々しい印象の旋律が演奏されるのですが、最初からすっかり音楽に引き込まれてしまいました。フルートとオーボエで奏される第2主題の優しい語りかけはしみじみとさせるかと思うと、その後、トランペットやホルンの響きが朗々と聞こえてきます。黒人霊歌をもとにしたといわれるこの2つの主題は巧みに展開・再現され、ある時は弦楽器が美しい響きを奏で、木管は小鳥がさえずるかのように歌います。ティンパニとともに金管が響きわたり、コーダへ。このすばらしい演奏に熱いものがこみあがってきました。

<郷愁に満ち、しみじみと聴かせるラルゴ>

第2楽章は、厳かで神秘的な序奏に導かれ、イングリッシュ・ホルンが「家路」としてお馴染みのメロディーを奏します。このラルゴの主題は、アメリカの詩人ロングフェローの叙事詩「ハイアーアワサ」中の「森の埋葬」に霊感を得て書かれたとされています。イングリッシュホルンがそのメロディーのソロを吹く時、そのバックに弦楽器とともに2本のクラリネットが入るのがこの席から見え、この叙情的な旋律を浮き立たせていることがわかりました。それから年配の女性が、イングリッシュ・ホルンで家路のメロディーを3回吹いたのですが、その合間に1度オーボエに持ち替えるのです。横にはその木管を立てて置く台がありました。この楽章の中心的ソロ楽器の演奏は大変なのに、掛け持ちなのです。フルートとオーボエによる中間部の主題は郷愁をかきたてられます。ぞくぞくっとする低弦のピチカートにのって、木管、ヴァイオリン群が切々と歌うところでは泣けてきそうになりました。3度目の家路のメロディーに続き、指揮者を囲む第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの8本だけで演奏するところもしみじみと聴かせました。最後にこの楽章の序奏が再び厳かに繰り返され、低弦が静かに消え入るように奏でて終わります。この曲が名曲中の名曲たる所以を痛感させられた演奏でした。

<心を踊らせ、心に染み入るような演奏>

第3楽章は活気に溢れる短い序奏に続いて、ボヘミア農民たちの素朴な踊りを思わせる速いテンポのスケルツォが活き活きと響いてきます。この席からでは見えないティンパニの音が近くで大きく聴こえました。トリオでの木管による伸びやかな演奏の後に続く弦楽器群の中音域の響きは魅力いっぱいです。そしてコーダの盛り上がりでの総奏は力強い集中力のある演奏でした。休みなしに続けられた第4楽章で、低弦とトランペットが朗々と吹かれて始まる行進曲風の主題の演奏はなんと表現したらいいのでしょうか。高弦と低弦とが見事なバランスで響き、その表情豊かな音楽的とも言えるな演奏には心踊らされました。その第1主題を慰めるかのように優しくクラリネットと弦楽器によって第2主題が歌われます。第1主題が変化しながら進み、マリスは心に染み入るようにたっぷりと弦を歌わせ、それに応えるように木管がさえずり、コーダに入ります。その壮大なクライマックスで高揚したあと、木管が消え入るように鳴って曲を閉じます。その木管の音が消え、終わってからの余韻を味わいたかったのですが、マリスがまだ手を下ろす前に拍手が始まってしまったのは、非常に口惜しいことでした。

<バレエ音楽「春の祭典」の情景>

ストラヴィンスキーが1913年に作曲したこのバレエは、こけら落としされたばかりのパリのシャンゼリゼ劇場でディアギレフのロシアバレエ団、ニジンスキーの振付、ピエールモントゥーの指揮により初演されました。原始的でありながら複雑なリズムと大胆なダイナミズムによって、当時は大きな騒ぎとなりました。今日では、独創的リズムと圧倒的な迫力を特徴とし、オーケストラの名技性が発揮される管弦楽曲として、しばしば演奏されています。曲は2部構成で、第1部「大地礼賛」では、昼間の異教徒たちの儀式が描かれ、第2部では夜の祭典が描かれています。
第1部
1.序奏:ファゴットの旋律に始まる音楽が春の目覚めを印象的に暗示します。
2.春のきざしと乙女たちの踊り:強烈な弦によるスタッカートのリズムが刻まれ、若い男女が大地礼賛の儀式として、野性的な踊りを繰り広げます。
3.誘拐:リズムが急速に変化するプレストの曲で、略奪結婚を描いています。
4.春のロンド:クラリネットとバスクラリネットがロシア民謡風の旋律を伸びやかに歌い、その後太古の激しい踊りが打楽器と金管により威圧的に表されます。
5.敵対部族の戯れ:対立する2つの主題が絡み合いながら激しくを増して進んでいきます。
6.賢者の行列:重々しいテューバの響きが、長老と賢者たちの行列を描きトゥッティのクライマックスとなります。
7.大地への口づけ:長老たちが大地を礼賛する様子を描いた短い小節です。
8.大地の踊り:急速なスピードと強烈な色彩で描かれる第1部の締め括りです。
第2部
1.序奏:異教徒の神秘的な夜が弦楽器や弱音器をつけた金管などで描かれています。
2.乙女たちの神秘的なつどい:いけにえの乙女たちを選ぶ場面をソロバイオリンやアルトフルートなどで幻想的に表わし、重々しくなって行きます。
3.いけにえの讃美:いけにえに選ばれた乙女を賛美する踊りでリズムも拍子も変転し、落ち着きのない強烈な叫ぶような曲です。
4.祖先の呼び出し:祖先の霊を呼び出す祈りで不気味なコラールです。
5.祖先の儀式:重く単調なリズムでけだるくミステリアスに進んで行きます。
6.いけにえの踊り:選ばれた乙女が死に至るまで踊り続ける狂乱の踊りで急速なリズムの変化の上に熱狂的な音楽が繰り広げられ、金管の叫びと打楽器により凄絶なフィナーレとなります。

<演奏は原始的な荒々しさが不足‥>

「新世界から」での楽器の配置ではコントラバスと木管群との間にぽっかり空きスペースがありましたが、「春の祭典」では木管、金管、打楽器の奏者が増え、ステージは楽員でいっぱいになりました。またコントラバス9本、チェロ12本と弦楽器も少し増えていました。この大編成のオーケストラからは、大太鼓がズシンと響きます。またホルンは4本ずつ2段で配置され、その8本全部が管を上に向けて吹くのですから、視覚的にも迫力満点でした。弦楽器も金管や打楽器に負けず響いていました。マリスは連続する変拍子を振り分け、オーケストラも破綻なく、完璧な演奏を繰り広げたのですが、「新世界」の時ほど胸に迫ってくるものがありません。演奏が終わった直後での聴衆の反応も何となく鈍いように感じられました。マリスは決してエネルギーを放出したり、圧倒したりするような音楽づくりをしませんし、マイルドなトーンの超一流オーケストラが楽々とミスもなく演奏するのですから、この曲の根源にある原始的な荒々しさという特徴が薄まった感じは否めませんでした。

<心踊るアンコールの舞曲>

ブラームスはハンガリー舞曲集で大成功を収めましたが、彼はドヴォルザークに『自分の国の郷土色豊かな舞曲集』を作曲することを熱心に勧め、スラブ舞曲集が生まれました。この両方の舞曲集から魅力的な2曲が取り上げられたのですが、マリスならではの考えられた選曲だったと思います。アンコール1曲目、ブラームスのハンガリー舞曲第6番の演奏は奔放なジプシー音楽風にテンポを動かすスタイルもありますが、マリスはテンポを揺らすことはしません。ただコーダだけはテンポを速くして鮮やかに締めました。2曲目のアンコールは何が飛び出すか楽しみでしたが、軽快なテンポの聴き覚えのある曲はドボルザークのスラブ舞曲、その中で最も心踊る作品72の第7番でした。はつらつとしたこの曲はセルビア地方のコロ舞曲で、跳びはねるような中心主題をコンセルトヘボウは豊かな弦楽器の響きによりさらに魅力的に聴かせました。最後は大きく盛り上がり、聴衆から大喝采を浴びていました。楽員が引っ込んだ後も、一部聴衆の熱い拍手は鳴り止まず、私も舞台前の右横まで下りていました。その舞台右手からマリスが姿を現わし、拍手に応えていました。

<情感のこもった真摯なヤンソンスの指揮>

マリスは独裁的カリスマ指揮者ではありません。彼は楽譜どおりに表面的に美しく、迫力があるだけの演奏をするのではなく、その楽譜の奥にある音楽を我々に聴かせてくれました。いつも情感のこもった真摯な演奏をすることがヤンソンスの真骨頂だと思います。オーケストラにもそれが伝わり、味わいのある生気溢れる演奏が繰り広げられるのでしょう。ムラヴィンスキーの影響を受け、レニングラード・フィルのシェフの座を惜しくもテミルカーノフに譲ったマリスですが、ロシアに留まらなかったことが結果的に幸いしたと思います。北欧のローカルオーケストラだったオスロ・フィルを長年かけて育てあげた経験や欧米のオケでの体験を通して、今や飛ぶ鳥を落とす勢いです。彼の取り上げるプログラムはオーソドックスな名曲が多いのですが、現在、その名曲をこれほど趣を持って演奏し、聴衆の心を動かすことができる指揮者は希有だと思います。


マリス・ヤンスンス《参考にしたCD》

♪ ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 Op.95
☆ マリス・ヤンソンス(指揮)ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団
[RCO 04002](2003年6月6日ライブ録音、アムステルダム コンセルトヘボウ)

♪ ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」

☆ リッカルド・シャイー(指揮)クリーブランド管弦楽団
[LONDON 417 325‐2](1985年11月録音、クリーブランド マソニックオーディトリウム)
☆ ピエール・ブーレーズ(指揮)フランス国立放送局管弦楽団
[ADES 202632](1963年録音、パリ)

♪ ブラームス ハンガリー舞曲 第6番 ニ長調

☆ ベルナルト・ハイティンク(指揮)ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団
[PHILIPS PHCP‐6037](1980年10月録音、アムステルダム コンセルトヘボウ)

♪ ドヴォルザーク スラブ舞曲 Op.72‐7

☆ ジャン・マルティノン(指揮)ロンドン交響楽団
[LONDON POLL‐4556](1958年10月録音、ロンドン キングスウエイホール)

(2006.12.28 UP)

 
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