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 Review No.023  for Operetta
 2007.1.13 16:00  Aichi Art Center - Large Hall, Nagoya
 Budapest Operetta Theatre  -  Maklary Laszlo (Conducting)
アーティスト: ハンガリー国立ブタペストオペレッタ劇場・名古屋公演   マクラーリ・ラースロー(指揮)
演奏会場: 愛知県芸術劇場 大ホール
プログラム: ヨハン・シュトラウス作曲 喜歌劇「こうもり」(全2幕)
                                Johann Strauss:  Die Fledermaus
出演: ヴァダース・ジョルト(アイゼンシュタイン、実業家)
カロチャイ・ジュジャー(ロザリンデ、アイゼンシュタインの妻)
フィッシュル・モーニカ(アデーレ、アイゼンシュタイン家の女中)
フェルデシュ・タマーシュ(ファルケ博士、アイゼンシュタインの友人で公証人)
ボーディ・バルバラ(イーダ、アデーレの妹)
ヴァダース・ダーニエル(アルフレード、声楽教師)
ファラゴー・アンドラーシュ(フランク、刑務所長)
サボー・ダーウ゛ィド(オルロフスキー公爵、ロシアの若い貴族)
デジー・ザボー・ガーボル(フロッシュ、刑務所の酔っ払い看守)
フィラ・バラージ(ブリント博士)他

ハンガリー国立ブタペストオペレッタ劇場バレエ団

監督:アーツェール・アンドラーシュ

ハンガリー国立ブタペストオペレッタ劇場合唱団
ハンガリー国立ブタペストオペレッタ劇場管弦楽団

<私とオペレッタとの出会い>
クラシック音楽が好きになったひとつのきっかけは、中学校の映画鑑賞でディズニーの作品「青きドナウ」を見たことです。ウィーン少年合唱団の生活を楽しく描いた音楽映画でした。「美しく青きドナウ」などウィーンの音楽が全編に散りばめられていて、舞台となったドナウ河やウィーンの街に、いつの日にか行ってみたいと思うようになりました。その夢はそれから10年ほど経って実現します。夏休みの時期でしたのでウィーンでは本格的なコンサートはありませんでしたが、テアター・アン・デア・ウィーン(「フィデリオ」、「こうもり」、「メリー・ウィドウ」等が初演された劇場)でレハールのオペレッタ「メリー・ウィドウ」を見ることができたのです。舞台の奥が半分見えないガラリエ(天井桟敷)の立ち席でしたが、料金は当時、日本円でわずか150円位で、レハールの甘美なメロディーに酔いしれました。ドイツ語の台詞に聴衆は大笑いしていましたが、私にはちんぷんかんぷんでした。その時の魅力的な公演はウィーンフォルクスオパーによるものだったようです。

<忘れられないウィーンフォルクスオパー来日公演>

そのフォルクスオパーは1979年に初来日し、その後、何度か来日を繰り返し、数々のオペレッタの上演によって日本のオペレッタファンを増やしました。とくに名古屋の放送局CBCが招聘元だったこともあって、名古屋でその公演を楽しむことができました。その中では、初来日の時のJ.シュトラウス「こうもり」とレハール「メリー・ウィドウ」が忘れられません。日本での初公演は名古屋で、当時はドイツ語のせりふへの日本語字幕スーパーはなかったのですが、その演技、話しぶりによりオペレッタの面白さ・楽しさはよく分かりました。せりふに日本語の単語が出て来て、聴衆の笑いを誘っていました。「こうもり」でアイゼンシュタイン、「メリー・ウィドウ」でダニロを演じたペーター・ミニッヒの味わい深い歌唱と演技は忘れられません。また「こうもり」でアデーレ、「メリー・ウィドウ」でウ゛ァランシエンヌを演じたヒューストン生まれの美貌ソプラノ、メラニー・ホリデーはその歌と踊りで、一躍人気者となりました。

ブタペストオペレッタ劇場のオリジナルポスター<ブタペストオペレッタ劇場が初めて持ってきた「こうもり」>

しかし、やがてウィーンフォルクスオパーのオペレッタ日本公演はなくなってしまい、その後、1996年から毎年のように来日してオペレッタを楽しませてくれているのがブタペストオペレッタ劇場です。これまで「メリー・ウィドウ」とカールマンの「チャルダッシュの女王」を見ましたが、お国物で聴衆を喜ばせるサービス精神満点の公演でした。そして今回11回目となる来日公演では、初めて最も有名なウインナオペレッタ「こうもり」を持ってきました。場所は愛知県芸術文化センター大ホール(収容人員2500名)で、私には久しぶりのオペレッタ公演でした。今回、座ったのは舞台に向かって左側のボックス席で舞台には近いものの、斜めから眺めるような場所でした。

<「こうもり」の見どころ聴きどころ@:アイゼンシュタイン邸での場面>

オペレッタ「こうもり」は、19世紀末のウィーンを舞台に大晦日から元旦の出来事を題材にした物語。役人侮辱罪で拘留されることが決まった実業家のアイゼンシュタインは刑務所への出頭の前夜、友人のファルケ博士に誘われて夜会に出かけることになります。ここではアイゼンシュタインが今から刑務所へ出頭すると言いながら、その前に夜会に出掛けようとする下心を持っての掛け合いが面白いところです。ロザリンデは「あなたが牢獄に入れられて」、アイゼンシュタインは「お前と離ればなれになって」、アデーレは「叔母が重病で」とその悲しさをそれぞれが歌いながら、実は、皆逢い引きや今晩の夜会が楽しみで、秘密の楽しみについつい浮かれて踊り出してしまうのです。言葉と本心が正反対である様子を面白おかしく見せ聴かせてくれるところです。アイゼンシュタインの留守中、妻のロザリンデは復縁を迫る昔の恋人アルフレードを家に招き入れるのですが、彼はやってきた刑務所長フランクにアイゼンシュタインと間違えられ、未練がましくロザリンデに別れのキスをして、刑務所へ連行されて行きます。

日本公演のチラシ<見どころ聴きどころA:オルロフスキー邸での夜会の場面>

場面が変わって、オルロフスキー邸での夜会はファルケ博士の周到なる復讐劇の舞台として準備されていました。ファルケ博士は、かつて「こうもり」に扮して夜会に出席した帰り、泥酔状態のまま、アイゼンシュタインに置き去りにされて、恥をかかされ、「こうもり」博士とあだ名をつけられていました。その復讐の企てがあるとも知らず、アイゼンシュタインは変装して夜会に出かけるのですが、そこには女優に扮した女中のアデーレ、フランス貴族を名乗る刑務所長フランクに、仮面をしたハンガリー伯爵夫人というロザリンデもいました。女優になりすましたアデーレは、アイゼンシュタインに自分の家の女中に似ていると言われ、「こんな優雅な女中がいますか」と笑いとばし、《公爵様》を歌いコロラトゥーラソプラノを披露します。フランス貴族になりすました刑務所長フランクとフランスの公爵と称するアイゼンシュタインのへんてこなフランス語の会話は滑稽なところです。次に伯爵夫人と称する女性がまさか妻のロザリンデとは夢にも思わず、アイゼンシュタインが自慢の懐中時計を取り出して口説きにかかる滑稽な二重唱《しなやかな身のこなし》となります。しかしロザリンデは浮気の証拠にと、時計を取り上げてしまいます。そして本当にハンガリーの伯爵夫人なのかという人々の疑問にこたえて、情熱的なチャルダッシュ《故郷の歌をきけば》を歌います。最後に歌われるのが《シャンパンの歌》で、ホスト役オルロフスキーから歌い始め、アデーレ、アイゼンシュタインと歌い継がれ、この場面は終わります。

<見どころ聴きどころB:刑務所長の部屋の場面>

夜会を終え、刑務所に所長フランクが戻ると酔っぱらいの看守フロッシュが出迎えます。アデーレとイーダがパトロンになってほしいとやってきます。今度はアイゼンシュタインが夜会を楽しむだけ楽しんだ後、刑務所に出頭すると、そこにはなんと自分の身代わりがいたのです。アイゼンシュタインは弁護人になりすまし、アルフレードに面会に来た妻のロザリンデの浮気を知って激怒しますが、ロザリンデから夜会で口説いた証拠の「懐中時計」を見せつけられると、形勢が逆転してしまいます。夜会に出ていた人々が集まってきて、最後はファルケ博士の仕組んだ「こうもりの復讐」であったことが明らかにされます。最後にすべてはシャンパンの酔いのせいだと歌い、大団円となります。

<機動的な舞台展開の「こうもり」ですが‥>

ブタペストオペレッタ劇場の「こうもり」では、序曲が始まるとすぐに幕があき、ウィーン市立公園にある有名なバイオリンをひくJ.シュトラウスの金色の像が突然動き出します。ファルケ博士と序曲に合わせてコミカルに動き回り、エピローグが付いているような構成になっていました。そしてお馴染みの序曲はというと、所々カットされていて、少し違和感を感じました。幕の構成、内容についてもアレンジが施されており、通常は全3幕のところ、第2幕を途中で切って全2幕仕立てにしたり、女中のアデーレの歌がカットされているところもありました。全体に冗長さを感じさせないように工夫が施されているのですが、少しやりすぎの感もします。序曲のはじめの方では弦楽器が揃わず、薄っぺらな響きと相まって大丈夫か‥と思いましたが、歌が入り始めると、ぴったり合わせたり、少し外したりして生まれる実演ならではの魅力を感じさせてくれました。オペレッタの場合には精度や完璧な技巧が求められるオーケストラ曲の演奏とは、ひと味違うものがあることを思い起こさせてくれました。舞台装置は、ワインボトルやグラスを模した大きな造形物が置かれているだけの比較的簡素なもの。幕が変わっても大きなフォークやろうそくを模ったものなど、舞台装置の新たな追加や配置代えを行っただけで、機動的な舞台展開に重きが置かれているようでした。

<特色ある照明、衣装デザインですが‥>

舞台演出としては赤ワインの「赤」を基調とした色の照明やドライアイスの煙などを効果的に使って、怪しげなナイトクラブといった雰囲気をつくっていました。したがって3つの場面がどれも同じような情景となってしまい、メリハリがなくなってしまったようにも思います。夜会の場面でロザリンデ役のカロチャイ・ジュジャーが歌うチャルダッシュはハンガリー本家本元ということもあり、見事でした。しかしその衣装はハンガリー国旗をデザインしたもので、何となく野暮ったく感じました。このブタペストオペレッタ劇場の衣装は赤、黒、緑といった原色が多く、ウィーンフォルクスオパーの優雅な色調の衣装とは対照的でした。

<個性的なオペレッタ役者の演技、踊りに酔う>

今回の「こうもり」では、アデーレ役のフィッシュル・モーニカが艶やかさとコミカルな味わいで目を引きました。お馴染みの人気者オズウ゛ァルト・マリカが、今回の来日メンバーに入っていないのは残念でしたが、同じく小柄な体形のボーディ・バルバラが演じるイーダは走り回り転げ回っての大奮闘でした。オルロフスキー公爵の扱いは一風変わっていました。通常、女性アルト歌手かカウンターテナーの男性歌手がこの役を演じることになっていますが、この公演では最初は女装して現われ裏声なのですが、途中からドレスを脱ぎすて、ハンサムな若い男性に変身し、それまでとはうって変わってよく通る声で歌うのです。そして、この公爵、イーダとともに舞台を縦横に動き回って踊ります。オペラとは違い、歌も踊りもできないと勤まらないのがオペレッタ歌手なんですね。公爵はロシア人という設定なので、今回の舞台ではロシアの踊りが加えられていました。男性歌手がソロで「カリンカ」の最初の長〜いフレーズを息もつかずに歌いきった後、非常に速いテンポのロシアの踊りが披露され、盛りあがりました。全幕を通じてハンガリー語?の台詞が多いのですが、舞台の左右に縦書きの字幕表示盤が配置されているので、歌やセリフの内容がわかり飽きさせません。加えて日本語による挨拶や日本語の単語が頻繁に出て来るので、聴衆は大喜びです。刑務所長の部屋の場面で出て来る酔っぱらいの看守フロッシュのコミカルな演技は、もっとも楽しいところと言えます。今回、この看守役を演じたデジー・ザボー・ガーボルは、ウィーンフォルクスオパーの千両役者オッシー・コールマンに負けず劣らず笑わせてくれました。ワインは焼酎に置き換えられ、焼酎の注意書きを皮肉って、「ご使用にあたっては……お気をつけください。」と長々とした口上を日本語で述べるのですが、その流暢な日本語には感心、いや感服いたしました。「こうもり」が幕を閉じ、盛大な拍手に包まれて、カーテンコールです。1人ずつ幕の前に出て来て拍手を受けた後、幕が上がってアンコールに《シャンパンの歌》を合唱し、聴衆は手拍子をうって加わり楽しい一時でした。

Johann Strauss II (1825-1899)<「こうもり」が今も人気を博しているのは‥>

130年以上前のたわいもない物語のオペレッタが、どうして今も世界中で人気を博しているのでしょうか。当時流行っていたオッフェンバックのオペレッタに負けじとワルツ王が手掛けた3作目が「こうもり」でした。このオペレッタにはウィーン子が共感する優雅さや心地よさ、それに狡猾さが盛り込まれていました。当時のオーストリアは戦争に破れ、革命が勃発し、ウィーン万博建設ブーム後の不況に喘いでいました。その中で、現実は現実、都合の悪いことは忘れるのが一番幸せなことだったのです。生っ粋のウィンナオペレッタはウィーンを制覇した後、ドイツ各地、ヨーロッパ各国、アメリカにまで広まったのです。それはJ.シュトラウスによる香るような音楽によることはもちろん、男女の真実、大人のずるさやエゴ、人情、ユーモア、喜怒哀楽が交錯し、このオペレッタが人間の一面を見事に表出しているからに他なりません。そしてアメリカに渡ったオペレッタからミュージカルが生まれ、現在では欧米や日本で人気を博しています。

<オペレッタ「こうもり」とマエストロ、名歌手>

「こうもり」はこれまでウィーン国立歌劇場で上演されてきた唯一のオペレッタでした。(今ではレハールの「メリー・ウィドウ」も上演されるようになりました。)ベーム、カラヤンといった巨匠が指揮し、レコード録音も行われてきました。従来、ヨーロッパでは、指揮者はまず歌劇場のコレペティトーア(ピアノでソリストの歌手に稽古をつける人)として出発し、オペラやオペレッタについて学んで行くのが普通だったそうです。そして実力のある指揮者とは、オペラ、オペレッタが振れて、次にシンフォニーも振れることが条件となっていたのです。あのカルロス・クライバーも、ウィーンフォルクスオパーのコレペティトーアからマエストロの第一歩を踏み出しました。そして歌手では名花ルチア・ポップもウィーンフォルクスオパーにおいて「こうもり」の女中アデーレ役で経験を積んだ後、ロザリンデ役を演じてきました。またシュワルツコップ、ローテンベルガー、クンツ、ゲッダ、ルネ・コローといった人たちは皆オペレッタの名歌手でもあったのです。


《参考にした J.シュトラウス オペレッタ「こうもり」(全曲)のCD》

☆ カルロス・クライバー(指揮)バイエルン国立歌劇場管弦楽団&合唱団
ヘルマン・プライ(アイゼンシュタイン)、ユリア・ウ゛ァラディ(ロザリンデ)、ルチア・ポップ(アデーレ)、ルネ・コロー(アルフレード)ほか
[DG 457 765‐2](1975年録音)

☆ エーリッヒ・ビンダー(指揮)ウィーンフォルクスオパー管弦楽団、合唱団、バレエ団
ワルデマール・クメント(アイゼンシュタイン)、ミルヤーナ・イーロッシュ(ロザリンデ)、メラニー・ホリデイ(アデーレ)、
リシャード・カルチコフスキー(アルフレード)、オッシー・コールマン(フロッシュ)ほか
[DENON 70C37 7305‐6] (1982年6月24日 ライブ録音、福岡サンパレス)

 
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