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 Review No.026  for Concert
 2007.2.23  19:30  The Symphony Hall, Osaka
 Osaka Philharmonic Orchestra  -  CLAUS PETER FLOR
アーティスト: 大阪フィルハーモニー交響楽団 第405回定期公演  指揮: クラウス・ペーター・フロール
演奏会場: ザ・シンフォニーホール 大阪
プログラム前半: モーツァルト作曲 交響曲第40番ト短調 K.550
                        Wolfgang Amadeus Mozart: Symphonie Nr.40 g-moll Kv.550
プログラム後半: チャイコフスキー作曲 交響曲第6番ロ短調 op.74 「悲愴」
                        Peter Tschaikowsky: Symphonie Nr.6 h-moll op.74 "Pathétique"
ザ・シンフォニーホール<大阪フィル、大植のマーラー9番はフロールとの名曲プログラムへ>
大阪の友達から去年の秋、「大植英次が大阪フィルと定期演奏会でマーラーの交響曲第9番を演奏するから聴きに来ないか」と誘われ、その時が来るのを楽しみにしていました。大植さんの指揮はこれまで2回(ミネソタ管弦楽団とハノーファー北ドイツ放送フィル)聴いたことがあり、とくにミネソタ管との初来日公演は特に印象に残っています。対向配置によるベートーベンの第7交響曲、それに通常配置に変わったバーンスタインの「キャンディード」序曲は、はつらつとした勢いあふれる演奏で魅せられました。その後、大植さんは朝比奈さんの後を継いで、大阪フィルの音楽監督として意欲的に取り組み、注目を集めています。その大植さんがマーラー9番を振るというので、心待ちにしておりました。ところが演奏会の1週間ほど前、大阪の友達から電話が入り、大植さんが頚椎の怪我でキャンセルし、代わりの指揮者はクラウス・ペーター・フロールで、演奏曲目もモーツァルトの交響曲第40番とチャイコフスキーの「悲愴」に代わるとのこと。大植さんのマーラー9番が聴けないのは残念ですが、せっかくチケットを用意してもらった上、名曲コンサートになったとはいえ、フロールさんの指揮も一度聴いてみたい気持ちもあって、予定どおり大阪へ聴きに行ってきました。ザ・シンフォニーホールの入口には大植さんのメッセージが掲示され、多くの人が見入っていました。席はオルガン側で、ステージに並ぶオーケストラの向こう側の客席が目の前に飛び込んできました。

<思いがけない風貌と異色なモーツァルト40番>
指揮者クラウス・ペーター・フロールといえば、31歳と若くして旧東独ベルリン交響楽団の音楽監督となり、メンデルスゾーンの管弦楽曲、サン・サーンスの交響曲第3番、マルティヌーの交響曲第1&2番といったCDが出ていました。颯爽とした細身のイメージを持っていたのですが、ステージに現れたその姿を見て驚きました。灰色の長い髪を後ろに束ねたその風貌は、チェルビダッケとよく似ていて、まだ50代半ばの歳とはとても思えないほど老けて見えました。最初のモーツァルトでの楽器の配置はオルガン席から見ると右側から左側へ第1ヴァイオリン 12、チェロ 8、コントラバス 6、ヴィオラ 10、第2ヴァイオリン 10という編成で並んでいました。フロールさんは指揮棒なしでモーツァルトの交響曲第40番を振り始めました。ヴィオラの刻みで始まる速いテンポの第1主題が流れ、ヴィブラートをかけない古楽器風の奏法でした。しかし大阪フィルらしい腰の重いぶ厚い響きとはミスマッチなのは否めませんでした。オルガン側の席ですので、当然のことですが、向かって右側から第1ヴァイオリンとコントラバス、左側からは第2ヴァイオリン、そしてその前面から木管と金管の音が聞こえてきて、奇妙な感じではありました。第2楽章は乾いた感じの弦楽器と素朴とも言える木管の響きだけで細かなニュアンスは感じ取れませんでした。さらにリピートを忠実に何度も繰り返すため、なかなか終わらず、一瞬、睡魔が襲ってきました。第3楽章はテンポが速いかと思うと、所々で急にブレーキをかけたりして、これまで聴いたことのない異色の演奏となりました。フロールさんは、例えば手を広げて音量を増やすというようにオーケストラに細かく指示を出していました。いろんなことをやろうとしている指揮者とどっしりと構え落ち着いた感じのオーケストラとが葛藤しているようにも思えました。そして第4楽章の第1主題と第2主題の間にある推移主題のところになると、テンポを落とし、アクセントをつけて際立たせている点もきわめて異色かと思いました。そして曲が進むにつれ、俄然、熱が入り、各楽器がかけあいながらフィナーレとなりました。古楽の奏法によりながら、テンポを自在に変えて、マニアックとも言えるモーツァルト40番の演奏について、休憩中、大阪の友達と話が弾みました。

<大阪とカラヤン、ムラヴィンスキー、朝比奈の「悲愴」>

大阪の友達と、このホールのオルガン側の席で一緒に聴くのは、カラヤン&ベルリン・フィルの最期の来日演奏会以来になるという話をしていました。そういえば、あの時のプログラムもカラヤンの十八番であるチャイコフスキーの「悲愴」でした。SINFONAIRの管理人が大阪の友達と一緒に並んで苦労して手に入れられたプラチナチケットを、都合により小生がいただいたものでした。1988年4月29日、当時80歳のカラヤンは既に体が不自由で、介添人を伴ってステージに出て来ました。しかし一旦演奏が始まると、その集中力は凄いもので、オルガン側から見るカラヤンの「悲愴」は脳裏に焼き付いて忘れられません(前半はモーツァルトの交響曲第29番)。その演奏が終わった後、ステージサイドの席からカラヤンの写真を勝手に撮った者がいて、怒ったカラヤンがステージから引っ込む際に何度もにらみつけるということがありました。しかし、その翌年に亡くなってしまうとは‥思いもよらないことでした。「悲愴」で忘れられないのは、ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルが大阪フェスティバルホールで行った1975年6月1日の演奏会です。このコンビによる2度目の来日公演で、名古屋のプログラムはチャイコフスキーの交響曲第5番でしたので、ムラヴィンスキーの「悲愴」が聴きたい一心で、大阪公演のチケットを手に入れました(前半の曲目は、モーツァルトの交響曲第39番で名古屋と大阪で2回聴くことに‥)。その時も大阪の友人と一緒に聴いたのですが、虚飾を廃した真摯な演奏に心動かされました(あの時の凄い演奏はALTUSの来日ライブエディションのCDでその雰囲気を味わうことができます)。もうひとつ忘れられない演奏があります。今回の演奏会から遡ること、ちょうど10年前の1997年2月に、朝比奈 隆、大阪フィルが愛知県芸術劇場コンサートホールで演奏した「悲愴」です。重厚な低弦と金管の力強い響きでじっくり聴かせてもらいました。大阪の友人と大阪で聴いた巨匠の演奏、そして大阪フィルによる演奏と、私にとってチャイコフスキーの「悲愴」は大阪と切っても切れない縁があるようです。

クラウス・ペーター・フロール<そして「大阪フロール劇場」の「悲愴」に引き込まれる>
後半のプログラム、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」では、大阪フィルは通常配置に変わり、オルガン側から見て、右側奥に第1ヴァイオリン16、その手前に第2ヴァイオリン12、真ん中がチェロ10、その左前にコントラバス8、そして左側奥がヴィオラ12という配置になっていました。フロールさん、今度は指揮棒を持っての登場です。あたりが静まり、おもむろに指揮棒を振り下ろし、コントラバスの和音の静かな動きの上に、ファゴットが「ラシドーシ」という旋律を重苦しく吹いて第1楽章が始まります。ヴァイオリンによる甘美で切ない第2主題「ミレドラソミソドーラソー」がクラリネットに引き継がれ、消え入るようなピアニシモの後、突然ティンパニと金管により炸裂するトゥッティがありますが、その静と動のコントラストが際立っていました。第2楽章に入り、軽やかなワルツの部分とティンパニが単調なリズムを刻む中間部の不安げな旋律のところとでは、フロールさんの表情や動きがまったく違うのがよくわかります。さらに行進曲風の第3楽章で威厳を持って堂々と指揮したと思えば、第4楽章では左手をだらんとさせて虚脱感を表わしたり、力が入って唸り声を出したりと、喜怒哀楽を体中で表現しまくるのです。その様子は「大阪吉本笑劇場?」ならぬ「大阪フロール・パントマイム劇場」といった趣でした。これもオルガン側の席ならではの特典で、フロールさんの指揮ぶりを見ることによって、演奏を大いに満喫することができました。このように指揮者がグイグイとオーケストラを引っ張って行くというか煽るというか、その個性を発揮する中で、大阪フィルもフロールさんの指揮についていかなくては‥と必死になっていたように感じました。その他、特に印象に残ったところをあげてみます。舞曲と行進曲が交錯して現れる第3楽章は疾風怒涛の如く超スピードで駆け抜け、バスドラムがズシンと響いて、その迫力には圧倒されました。そしてこの曲のクライマックス、第4楽章では弦楽器の咽ぶような下降音型から始まり、絶望感が頂点に達した時にタムタムが鳴り、別れが告げられます。その後、演奏している楽器がだんだん減って行って、チェロとコントラバスだけが残ります。最後のところでは、コントラバス8本のうち、半分の4本がピチカートで弦をはじく一方、残り4本は弓でメロディーを弾くのを目前で見て、こうして「悲愴」は終わるんだと初めて知りました。(大阪の友達も同じ感想を持っていました。)演奏が終わった後、フロールさんが手を下ろし、振り向くまで誰も拍手をしようとしないため、その余韻を味わうことができたのは特筆すべきことでした。この日の演奏会を聴きに来た誰もが「フロール劇場」に引き込まれていたのでしょう。演奏が終わって、至福の静寂を与えていただいたこの日の大阪の聴衆に敬意を表したいと思います。変わりつつある大阪フィルですが、速いテンポで煽られても、重厚さに充ちた響きは健在で、朝比奈さんの味わいがまだまだ残っているなあと感慨深く思いました。

<フロールさんのCD‐Rライブ盤「悲愴」は壮絶‥>
後日、クラシック音楽CDに関する本を見ていたところ、目次にクラウス・ペーター・フロールのチャイコフスキー交響曲第6番の項目を偶然見つけました。CD通信販売の店主の著作によるもので、「ライブCD‐Rこっそり紹介」という章で紹介され、フロールさんが北ドイツ放送響を振った2001年、ハンブルクでのライブだとのこと。その説明の要旨は次のとおりです。「フロールのCDが出なくなって久しく、すでに過去の人だったが、こんなとんでもない『悲愴』をハンブルクでやっていた。人間の持つ業や苦悩をここまで壮絶に描き上げた『悲愴』はかつてなかった。これほどのチャイコフスキーを作り上げる指揮者がただ者のはずがない。…ペーター・フロール、必ず浮上してくるとみた。」この本の著者である店主さん、フロールさんが大フィルを振った「悲愴」聴かはりました‥?
(2007.06.06 UP)


《参考にしたCD》
♪ モーツァルト 交響曲 第40番 ト短調 K.550
☆ サー・チャールズ・マッケラス指揮 プラハ室内管弦楽団
[TELARC CD‐80139](1986年6月12〜14日、プラハ、芸術家の家)

♪ チャイコフスキー 交響曲 第6番 ロ短調「悲愴」
☆ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
[DG POCG‐7022](1984年1月 ウィーン、ムジークフェラインザール)
☆ エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
[ALTUS ALT059](1975年6月7日、東京文化会館 ライブ録音)
☆ 朝比奈 隆指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団
[CANYON PCCL‐00452](1997年2月20日、愛知県芸術劇場コンサートホール ライブ録音)

《参考にした本》
∇ 『クラシックは死なない! あなたの知らない新名盤』 松本大輔 著(青弓社 2001年11月発行)‥「ライブCD‐Rこっそり紹介」


 
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