ミスター・アートのコンサート&CDレビュー♪
ミスター・アートのプロフィール INDEX へ戻る ミスター・アート宛て E-Mail
 Review No.032  for Concert
 2007.10.18  19:00  The Concert Hall, Nagoya
 Sachie Sawada, violin     Yuko Nakaoka, piano
アーティスト: 澤田 幸江 ヴァイオリン リサイタル (シベリウス没後50年記念)      中岡 祐子(ピアノ)
演奏会場: ザ・コンサートホール 名古屋
プログラム前半: シベリウス作曲 ヴァイオリンとピアノのための「5つの小品」 作品81
シベリウス作曲 田園舞曲集 作品106
                        Jean Sibelius: Five pieces for violin and piano, op.81
                        Jean Sibelius: Dances Champetres, op.106
プログラム後半: シベリウス作曲 ヴァイオリンと管弦楽のための「2つのセレナード」 作品69 (ピアノ伴奏版編曲)
シベリウス作曲 ヴァイオリンと管弦楽のための「6つのユモレスク」作品87&89 (ピアノ伴奏版編曲)
                        Jean Sibelius: Two Serenades, op.69
                       
Jean Sibelius: Six Humoresques, op.87&89
アンコール曲: シベリウス作曲 「悲しきワルツ」 作品44‐1 (ヴァイオリン編曲)
                        Jean Sibelius: Valse triste, op.44-1

<シベリウス記念の年に相応しいプログラムとステージ衣装>

シベリウス没後50年記念として、シベリウスの交響曲第6番と第7番を名古屋で聴くことが叶いましたが(レビューNo.31)、その1ヵ月後に、今度はシベリウスのヴァイオリン曲ばかりのリサイタルが開かれると知り、名古屋の伏見(名古屋駅と栄の中間に位置)の電気文化会館の中にあるザ・コンサートホールへ行ってきました。シンフォニスト、シベリウスは交響曲、管弦楽曲以外にもピアノの小品、弦楽四重奏曲、合唱曲、歌曲と幅広いジャンルにわたり作品を残していますが、忘れてはならないのがヴァイオリンの曲です。シベリウスの代表作、ヴァイオリン協奏曲ニ短調は、今や古今東西のヴァイオリン協奏曲の中で、もっとも頻繁に演奏されています。その陰に隠れて目立たないのですが、円熟期に書かれた魅力的なヴァイオリンの小品が、きら星のようにあります。そのヴァイオリン曲を取り上げ、さらに全曲シベリウスの作品だけでプログラムを組むという、記念の年に相応しい意欲的なリサイタルを澤田幸江さんという方が開きました。澤田さんは愛知県立芸術大学を卒業後、フィンランドに渡って国立シベリウス・アカデミーへ5年間留学。現在、地元愛知県で県芸大の講師などを勤め、フィンランドでは室内オーケストラのメンバーでもあります。フィンランドで学んだということからフィンランドやシベリウスの作品には強い愛着を持っていられるのでしょう。それがこのリサイタルに表れていると思います。プログラムだけでなく、ステージに現れた澤田さんの衣装に目を見はりました。水色と白のステージドレスで、明らかにフィンランドの国旗を意識した色調でした。ふと今年1月に行われたブタペストオペレッタの「こうもり」(レビューNo.23)で、ハンナが扮するハンガリー貴婦人の衣装がハンガリー国旗そのものだったことを思い出しました。比較するのはナンセンスではありますが、澤田さんのフィンランドを感じさせる色で彩られたデザインの衣装は洗練されていて、視覚的に大きなインパクトを与えました。

〔ヴァイオリンとピアノのための「5つの小品」 op.81〕
シベリウスのこの5つの小品は、1915〜18年にかけて単独で作られた作品を、後になって組曲風にまとめたものです。1曲目「マズルカ」は独特なリズムでヴァイオリンが快活に歌い、ピアノの伴奏と掛け合いながら、その技巧を示します。それはジプシーヴァイオリン風でもあります。2曲目「ロンディーノ」はシンプルな中に、民謡風の味わいが感じられ、クライスラーのヴァイオリン小品を聴いているかのような気になります。3曲目「ワルツ」は明るく平易なのですが、そこには憂いも感じられます。メロディアスな曲で、シベリウスの50歳代に作られたとは信じられません。4曲目「朝の歌」は舞曲という形態ではなく、ヴァイオリンの技巧がさりげなく味わえます。終曲の「メヌエット」は曲想が豊かで、バラード風な楽想をヴァイオリンが技巧を凝らして奏でます。時折、バッハの曲のような厳かな味わいが感じられます。「5つの小品」 は、この夜のプログラムの中では、もっとも親しみやすいものでしたが、『技巧性も兼備えていて演奏者にとっては第1曲マズルカの冒頭から終曲のメヌエットまで、油断することはできません。』とプログラムの解説で独奏者の澤田さんは述べています。

Sibelius at Ainola〔田園舞曲集 op.106〕
交響曲第6番と第7番が完成した後の1925年に作られたこの田園舞曲集(第1曲〜第5曲)については、今回の演奏会に取り上げられるまでまったく知らず、初めて聴く作品でした。作品名からは田舎風の舞曲かと思ってしまいますが、聴いてみると、まったくその雰囲気はありません。澤田さんは解説で次のように述べています。 『5つの舞曲から成り立つ田園舞曲集は1925年に通して書かれたと言われています。シベリウスの創作する舞曲は、実際には鑑賞的なもので、この田園舞曲においても自由な楽想とテンポの変化がみられます。例えば第1曲や第3曲は田園的な穏やかさからは程遠く、壮大で厳しいものです。また稲妻のような恐ろしい景色も現れます。逆に第2曲や第4曲はインテルメッツォ(間奏曲)と命名したくなるような自由さと即興性を兼備えています。』 この田園舞曲集は厳しさとやさしさが入り交じり、舞曲のようで舞曲でない意欲的な純粋音楽の趣が感じられました。

〔ヴァイオリンと管弦楽のための「2つのセレナード」 op.69〕
この「2つのセレナード」は交響曲第4番と第5番をつなぐ時期にあたる1912〜13年に生まれました。様々な独奏楽器とオーケストラのために一連のセレナードが構想されたのですが、唯一完成したのは、このヴァイオリンによる2つのセレナードだけでした。

《セレナード第1番》 清澄な北欧の空気を感じさせるヴァイオリンの音がシベリウス独特のシンフォニックなオーケストラの調べに乗って奏でられるのですが、残念ながらリサイタルではピアノ伴奏ですので、今ひとつ物足りなさを感じました。次々に出てくるフレーズは、まさにヴァイオリン協奏曲そのもので、短いながらも聴きごたえがあります。

《セレナード第2番》 哀愁に満ちた第1主題をヴァイオリンが切々と歌います。それと対照的に交響詩「夜の騎行と日の出」(レビューNo.1参照)を思い起こさせるような第2主題が顔を出し、この2つの主題が交互に現れ、ヴァイオリンの技巧が楽しめます。

〔ヴァイオリンと管弦楽のための「6つのユモレスク」(ピアノ伴奏版編曲) op.87&89〕
2つのユモレスク op.87(1917年作曲/1939年頃改訂)と4つのユモレスク op.89(1917〜8年作曲)は作品番号が分かれていますが、事実上、ひとつの作品と考えられています。フィンランドがロシアから独立し、内戦による混乱の時期の前後に書かれました。この1910年代にシベリウスはヴァイオリンの作品を集中的に書いており、若き日のヴァイオリンにかけた情熱が再び呼び起こされたかのような作風です。「ユモレスク」というと、ドボルザークのヴァイオリン曲が思い浮かびますが、シベリウスのユモレスクは違った雰囲気を持っています。どの曲も高度な技巧が要求され、ヴァイオリンの持つ表現力の様々な側面に光をあてた逸品です。

《第1番 ニ短調》 優雅なマズルカのリズムにのせて進行する舞曲調の曲で、ヴァイオリンの高音と低音が交互に顔をみせます。最後はテンポが速くなって終わります。この曲だけは当初「即興曲」と題されていましたが、初演後に改訂され現在の形になりました。

《第2番 ニ長調》 急速なパッセージがかけ巡り、伴奏にのってヴァイオリンがピチカートを時折交え、進んで行きます。オーケストラによる伴奏には、ヴァイオリン協奏曲に出てきたような節回しがちらっと顔を覗かせます。この曲はパガニーニに献呈されています。

《第3番 ト短調》 柔和なガボットで、技巧的なヴァイオリンが戯れているような曲です。独奏ヴァイオリンのさまざまな音色が楽しめ、何となくパガニーニ風の感じがします。伴奏は弦楽器だけでおこなわれます。

《第4番 ト短調》 弦楽合奏の和音が保持され、その上にノクターン風の主題が現れ、ある時はバッハのような厳かさを示し、変容しながら進みます。ここには静かな物思いに沈むかのような風情があります。

《第5番 変ホ長調》 カッコーというような音階を2度、独奏ヴァイオリンが繰り返して始まります。明るく軽快な舞曲風の主題をヴァイオリンが演奏するのですが、この曲でもパガニーニばりの技巧を楽しむことができます。

《第6番 ト短調》弦楽合奏の伴奏音型に乗ってラプソディックな主題を独奏ヴァイオリンが存分に歌いこみます。



電気文化会館 ザ・コンサートホール<雑感;澤田さんの演奏、アンコール、ホールのこと等>


∇ 後半のプログラムに入って、ヴァイオリンの音がスムースになったような気がしました。澤田さんの演奏は、技巧を前面に出すのではなく、堅実さ、誠実さが表れているように思いました。演奏が終わると、温和な表情で笑みを浮かべてお辞儀をされ、音大関係やヴァイオリンを習っている人などの拍手に応えていました。

∇ アンコールは「悲しきワルツ」でした。オーケストラの演奏会では、アンコールの定番となっている曲ですが、吹奏楽、ピアノ五重奏曲またはピアノ三重奏曲、ヴァイオリンまたはヴィオラ、あるいはチェロとピアノ、ピアノ独奏または連弾など何種類もの編曲が作られました。今回、ヴァイオリンの独奏で聴くのは初めてのことでした。ヴァイオリンだけですと、最初奏されるゆっくりしたワルツがヴァイオリンでは無機的に低い音で響き、オーケストラの時とは少し違っていて、不気味な感じがしました。はなやかな旋律のところは流麗な高い音となり、そのコントラストが際立っていました。

∇ このホールではヴァイオリンの音は大きく聴こえる半面、少し硬い響きのように思われます。ホールの内装が大理石だからでしょうか、何となく温かみ、柔らかさに欠けるような気がするのですが‥。

∇ シベリウスだけのヴァイオリン曲を楽しませていただきましたが、澤田さんの書かれたプログラム雑感 〜シベリウス没後50年に寄せて〜 には、簡単なシベリウス年譜とともに、このリサイタルで演奏されたヴァイオリン曲の解説が詳しく載っていて、大変参考になりました。次の機会には、シベリウスの作品80のソナチネや作品78&115の小品集をプログラムに入れたリサイタルを開いていただければと切望するものです。


(2007.11.23 UP)



《参考にしたCD》

♪ シベリウス ヴァイオリンとピアノのための「5つの小品」 Op.81
☆ ユヴァル・ヤロン(ヴァイオリン)、レナ・シャロン(ピアノ)
[FINLANDIA WPCS−6217](1976年2月、1977年7月録音 フィンレウ゛ィ・スタジオ、ヘルシンキ)

♪ シベリウス 田園舞曲集 Op.106
☆ ニルス=エリク・スパノフ(ヴァイオリン)、ベンクト・フォシュベルイ(ピアノ)
[BIS‐CD‐625](1993年5月21、23日録音 ダンデリド・ギムナジウム、スウェーデン)

♪ シベリウス ヴァイオリンと管弦楽のための「2つのセレナード」Op.69
☆ アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)、アンドレ・プレヴィン(指揮)シュターツカペレ・ドレスデン
[DG 447 895−2](1995年5月録音 ルカ教会、ドレスデン)

♪ シベリウス ヴァイオリンと管弦楽のための「6つのユモレスク」 Op.87&89
☆ レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)、ユハニ・ラミンメキ(指揮)タピオラ・シンフォニエッタ
[FINLANDIA 3984‐24451‐2](1989年5〜6月録音 タピオラホール、エスポー、フィンランド)




 
<<< 前へ INDEX へ戻る 次へ >>>
 
Copyright(C): 2005-2007  Mr.Art & SINFONAIR  All rights reserved Since 2005.11.19
Background-image of this page: appears courtesy of The Heart of Eternity