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Review
No.033 for Concert |
2007.10.5 18:45 Aichi
Prefectual Art Center - Concert Hall |
Nagoya
Philharmonic Orchestra - TATSUYA SHIMONO
Xavier
de Maistre, Harp |
| アーティスト: |
名古屋フィルハーモニー交響楽団 第340回定期演奏会 下野竜也指揮 グザビエ・ドゥ・メストレ(ハープ) |
| 演奏会場: |
愛知県芸術劇場コンサートホール |
| プログラム前半: |
プロコフィエフ作曲 交響曲第1番ニ長調 作品25 「古典交響曲」
Prokofiev:
Symphony No.1 in D, op.25
グリエール作曲 ハープ協奏曲変ホ長調 作品74
Gliere(1875-1956):
Harp Concerto in E-flat, op.74 |
| アンコール曲: |
パリッシュ=アルヴァース作曲 「マンドリン」
Parish-Alvers(1808-1849):
"Mandolin"
ドビュッシー作曲 「アラベスク」 第1番
Debussy:
"Arabesque" No.1 |
| プログラム後半: |
ラフマニノフ作曲 交響曲的舞曲 作品45
Rachmaninov:
Symphonic Dance, op.45 |
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<演奏会開演に間に合わず‥ボールトの演奏会を思い起こす>
仕事の都合で演奏会場に着いた時は、すでに開演時間を過ぎていました。コンサートホール内には入れず、ホワイエでスピーカーから流れるプロコフィエフの「古典交響曲」の演奏を聞きながら待っている間、30年ほど前のことを思い出していました。初めてヨーロッパへ旅行した時のことでした。ロンドンでプロムス(プロムナードコンサート)を聴くために会場のロイヤルアルバートホールへ向かいました。ところが地下鉄から降りて反対方向に歩いてしまい、開演時間に間に合わず、ボックス席の前で入るのを止められてしまいました。その時、ホールでは、サー・エードリアン・ボールトがBBC交響楽団を振ってブラームスの交響曲第1番を演奏していたのです。楽章の合間に入れてくれると思っていましたが、案内のおじさんは曲が終わるまで入れてくれず、悔しい思いをしました。後半の曲は違う指揮者が振ったため、ついにボールト指揮による演奏を聴くことはできませんでした。今回は、それに比べれば、交響曲とはいえ10数分足らずの曲で、ウォーミングアップと思って諦めるしかありません。でも、下野さんが、このシンプルな交響曲をいかに料理するのか!・・・目の前で聴きたかったなぁ‥・・・・
<親しみやすいグリエールのハープ協奏曲>
グリエールは1875年、ウクライナのキエフに生まれ、ロシアからソ連の時代までロシア音楽の中核にいて、伝統的な様式を守り通した作曲家です。モスクワ音楽院の門下生にはプロコフィエフやハチャトリアンといった作曲家がおり、グリエール自身もバレエ音楽や交響曲、協奏曲など多くの分野に数多くの作品を残しています。1938年に書かれたこのハープ協奏曲は、その当時、席巻していた実験音楽とは一線を画し、わかりやすい構造と親しみやすい旋律に溢れています。
[第1楽章]
アレグロ・モデラート: 豊かに響くハープの和音で始まり、歌に満ちたさわやかな楽章です。
[第2楽章] テーマ・コン・バリアツィオーニ、アンダンテ:
低弦に導かれ、ハープソロが魅力的な主題を奏し、この主題に基づいて6つの変奏が行われます。オーケストラによってもう一度主題が奏され、コーダとなります。
[第3楽章]
アレグロ・ジョコーソ: 軽やかで敢然とした音楽と愛らしい音楽が絡み合って、ハープの妙技が楽しめます。
(作曲者と曲目の解説については演奏会プログラムから引用)
<ハープ協奏曲を初めて聴いて‥>
グリエールと言うと、19〜20世紀ロシアの作曲者という予備知識しかなく、持っているCDといえば、交響曲第3番ロ短調
Op.42「イリヤ・ムローメツ」だけで、ハープ協奏曲については、その存在すら知りませんでした。伴奏のオーケストラは2管編成で、ホルン3、ティンパニ、トライアングルに弦楽器は第1ヴァイオリン10、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ8、チェロ6、コントラバス4という陣容でした。弦楽器は明快で美しく鳴り、オーボエとハープの掛け合いが印象的でした。管弦楽曲の演奏時にハープの音を聴く機会は多いのですが、ハープ協奏曲を聴くのは初めてでした。実演で聴いてみると、細やかな音がよく聴こえてきて、その優美な響きにうっとりしてしまいました。メストレさんはフランスのトゥーロン生まれで、若くしてウィーン・フィルのソロ・ハーピストに就任しました。ウィーン・フィルに入団した最初のフランス人だそうです。席はパイプオルガン側のP席で、今年8月、ベレゾフスキー(ピアノ)+ボレイコ指揮PMFオーケストラを聴いた席に近いところで(レビューNo.29)、ハープを奏でる指先がよく見えました。ところで、ハープの調整は大変ですね。メストレさんは楽章ごとに、必ず調弦していました。
<アンコールでメストレさんのハープに魅了される‥>
協奏曲をひき終え、盛んな拍手に応えて、メストレさんはアンコールをひき始めます。初めて聴く曲で、結構長めだったのですが、しばしハープの魅惑的な世界に没入してしまいました。鳴りやまぬ拍手に、長身でイケメンのメストレさんは、小走りで舞台へ再び登場。2曲目のアンコールでは、よく耳にする旋律が流れてきました。原曲はドビュッシーの初期のピアノの小品「アラベスク第1番」ですが、魅力的なアルペジオを伴うためハープにぴったりの曲です。その「アラベスク」とはムーア人により創られた精巧な幾何学模様、植物をモティーフにした細かく入り組んだ装飾の芸術で、中世以降、アラベスク模様として流行っていました。この言葉を初めてピアノ小品のタイトルに使ったのはシューマンですが、ドビュッシーも1888年に作曲した2つのピアノ小品に同じタイトルをつけました。その第1番はアラベスクの名にぴったりの精緻で繊細な装飾音が癒しと安らぎを与えてくれます。盛大な拍手が長い間続き、多くの聴衆がメストレさんのハープに魅了されていたようです。
<交響曲の内容を持ったラフマニノフ最後の作品>
ラフマニノフはロシアで作曲家、指揮者として活躍していましたが、第1次世界大戦とロシア革命によってその生活は一変します。全財産をロシアに残したまま、1917年にアメリカに亡命。安定した収入を得るため、ピアノの演奏活動に力を入れ、そのレパートリーを拡げなければなりませんでした。そうした多忙な演奏活動と異国での亡命生活は作曲意欲を減退させました。その中で作品の数こそ少ないものの、「パガニーニの主題による狂詩曲」や交響曲第3番といった傑作がアメリカで生まれています。そして彼の最後の作品となったのが「交響的舞曲」で、1940年の夏から秋にかけてニューヨーク近郊のロングアイランドで作曲されました。67歳のラフマニノフは、5週間の間、朝9時から夜11時まで作曲に没頭し、その完成に全力を注ぎました。彼には残された時間が少ないという焦りと、これまで作曲したどれよりも貴重なこの作品を、何としても完成させなければという考えに追い立てられていたのです。途中で各楽章に「真昼」「黄昏」「真夜中」という表題を付けることが考えられたようですが、完成前には取り消されました。3楽章で構成されたこの曲は3管編成で書かれ、舞曲というよりは、実質的には交響曲とも言える規模と内容をもっています。メランコリックな情感とともに全曲を覆う不安感は、第2次世界大戦へと拡大しつつあった世相が背景にあったためと思われています。スコアの最後に「主よ、あなたに感謝する」と書かれていますが、これはラフマニノフが最後の作品となることを予感し、完成できたことを神に感謝する言葉だと考えられています。初演はこの曲が献呈されたユージン・オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団によって1941年1月3日に行われました。フィラデルフィアでの最後の4度目の演奏会で、客席の冷淡さに憤慨したオーマンディはオーケストラを起立させ、舞台から客席のラフマニノフに次のように語りかけたといいます。「彼ら(演奏家たち)は幸せに酔い、あなたの献呈を誇りとし、この与えられた喜びに対するあなたへの感謝を私は託されたのです。」
[第1楽章] ノン・アレグロ: 最初はためらいがちに始まりますが、すぐにエネルギッシュな主要主題に発展し、弦楽器の刻みの上に木管が渦巻くような音型を奏でます。ラフマニノフらしい独特な節回しが顔を出し、豊かな和声とリズミカルな迫力が広がります。叙情的な中間部ではオーボエとクラリネットのデュオにアルト・サキソフォーンが愁いを帯びた美しい旋律を歌います。ピアノの伴奏にのって弦楽器がさらに哀愁を込めて歌い継ぎます。「怒りの日」の動機が何度か姿をみせた後、再び冒頭のエネルギッシュな主題が戻ってきます。ティンパニのアクセントが加わる中、交響曲第1番の主題が引用され、過ぎ去った若き日を惜しむかのように静かに終わります。
[第2楽章] アンダンテ・コン・モート(ワルツのテンポで): 3つのワルツとコーダからなっています。弱音器の付いた金管のファンファーレに導かれ、弦楽器が短い断片を奏で、木管と対話するように進み、不思議な雰囲気を漂わせます。ここに聴かれるワルツはラヴェルとチャイコフスキーを合わせたような感じです。幻想的であるとともに不安感が全体を覆っています。これはこの時代の戦争による暗い雰囲気を反映しているようであり、また祖国への復帰の希望が絶たれた失意から来ているようでもあります。何かマーラーの交響曲の断片を聴いているかのような感じもしますが、マーラーの音楽に聴かれるおどろおどろしさはここにはありません。
[第3楽章] レント・アッサイ‐アレグロ・ヴィヴァーチェ: 短い導入部とグレゴリオ聖歌『怒りの日』のモティーフを中心として構成されたフィナーレです。自由な形式でありながら、スケルツォ的な部分を最初と最後に置き、中間部はロマン主義的で美しい緩徐部分となります。結びはエネルギッシュな主題と『怒りの日』の断片や混声合唱曲『晩祷』で引用されたロシア正教の聖歌『アレルヤ』が組み合わされ、最後のクライマックスを作り上げます。ラフマニノフ最後の作品はロマンティシズムと壮大なロシア的ダイナミズムが広がっていますが、何か伊福部昭の音楽やジョン・ウイリアムズの映画音楽の原型があちこちに顔を見せ、たいへん興味深く聴くことができます。
<楽器配置はオーソドックスな方?>
交響的舞曲の多彩な楽器配置がよく見えるように、空席が目立つ3階席に移動しました。ステージ向かって左側から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、その後ろにハープとピアノ、中央にはヴィオラ、右側にチェロ、その外側にコントラバスが並んでいました。ひな壇中央から左側に木管群、右寄りが金管群で、左手にティンパニがあり、最上段左からチャイム、木琴、タムタム、小太鼓、大太鼓の順に横一列に並んでいました。下野さんが指揮した昨年12月のブルックナーの交響曲第5番(レビューNo.22)の時の大胆な楽器配置に比べると、オーソドックスな方ですが、金管群を右寄りに固め、左手にティンパニを配置したところが、少し変わったところかなと思いました。
<次元の違う迫力で、一気呵成に聴かせたインパクトのある演奏>
冒頭、大太鼓の一撃で始まりますが、これはCDで聴く音とは次元の違う迫力があり、すっかり引きこまれてしまいました。3楽章からなるこの曲はこれまで何度も聴いてきた交響曲第2番に比べると、あまり起伏がなく面白味に欠けると、これまでは考えていました。しかし今回、下野さんと名古屋フィルの演奏を聴いて、初めてこの曲の真価が分かったように思います。下野さんの集中力のあるきびきびした指揮に触発され、名古屋フィルの機能が最大限に発揮されていました。第2楽章のワルツは何とも鬱積した感じが漂いますが、第3楽章のコーダに至る迫力と勢い溢れる演奏には凄さを感じました。これまであまりなじみのなかったこの曲を一気呵成に聴かせた下野さんの指揮には、ブルックナーの交響曲第5番の時と同様に感服した次第です。その後、あまたあるこの曲のCDを聴いてみても、この時の実演ほどインパクトのある演奏はありませんでした。
(2007.12.31 UP)
《参考にしたCD》
♪ プロコフィエフ: 交響曲第1番 ニ長調 Op.45「古典交響曲」
☆ ユージン・オーマンディ(指揮)フィラデルフィア管弦楽団
[SONY SBK 53260](1961年3月26日録音
、タウンホール、フィラデルフィア)
※ オーマンディ盤は絶妙なテンポと明快な表現で聴かせます。
♪ ドビュッシー: アラベスク第1番(ルニエ編曲)
☆ 竹松 舞(ハープ)
[DENON COCO‐80592](1997年3月録音 秩父ミューズパーク音楽堂)
♪ ラフマニノフ: 交響的舞曲 Op.45
☆ エフゲニー・スヴェトラーノフ(指揮)ロシア国立交響楽団
[CANYON PCCL‐00325](1995年10月録音
モスクワ放送第5スタジオ)
☆ マリス・ヤンソンス(指揮)ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団
[RCO 05004](2004年12月22、23、25日ライブ録音
、コンセルトヘボウ、アムステルダム)
※ スヴェトラーノフ盤は骨太な表現とロマンティックな表現がミックスされた濃厚な演奏が特徴です。
ヤンソンス盤はコンセルトヘボウ管弦楽団のまろやかで厚みのある響きを生かし、
スタイリッシュかつ情感豊かな演奏を繰り広げています。
《参考にした本》
「ラフマニノフ」ニコライ・D・バジャーノフ著 小林久枝訳
(音楽之友社 1975年)
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