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 Review No.039  for Concert
 2008.4.12  17:00  Aichi Prefectual Art Center - Concert Hall
 Orchestre symphonique de Montreal  -  KENT NAGANO
アーティスト: モントリオール交響楽団 名古屋公演 ケント・ナガノ指揮
演奏会場: 愛知県芸術劇場コンサートホール
プログラム前半: ベルリオーズ作曲 幻想交響曲 作品14
                        Berlioz: Symphonie fantastique, op.14
プログラム後半: ワーグナー作曲 楽劇「トリスタンとイゾルデ」から 前奏曲とイゾルデの愛の死
                        Wagner: "Tristan und Isolde" - Vorspiel und Isoldes Liebestod
ラヴェル作曲 ボレロ
                        Ravel: Bolero
アンコール曲: 日本古謡/J.P.ベントゥス編曲:さくら変奏曲|ビゼー作曲:「アルルの女」第2組曲〜「ファランドール」
<熱気に満ちた《幻想交響曲》の演奏の再現を期待し‥>

ケント・ナガノがモントリオール交響楽団のシェフになって初めての来日公演が行われ、何よりもベルリオーズの幻想交響曲が聴けるというので、愛知県芸術劇場コンサートホールへ行ってきました。というのもケント・ナガノとハルレ管弦楽団との1996年6月15日の名古屋公演で聴いた《幻想交響曲》の熱気に満ちた演奏の再現を期待したからです。その時の会場は同じ芸文コンサートホールで、オルガン側の指揮者が間近かに見える席でした。熱くなる演奏で、昨今流行りの冷めた演奏とは一線を画すものでした。ケント・ナガノは、その翌1997年にもリヨン国立歌劇場管弦楽団と来日し、9月21日の名古屋公演では、ビゼーの交響曲、《カルメン》組曲、ラヴェルの組曲《クープランの墓》、《ダフニスとクロエ》第2組曲といったフランス物を披露しました。さてモントリオール交響楽団といえば、1977年以来、シャルル・デュトワの指導のもと、フランス音楽の演奏では、フランスのオーケストラよりもフランスらしいと絶賛され、DECCAからCDが続々と発売されました。このコンビの演奏ですが、1995年4月10日に行われた名古屋公演のサン・サーンスの交響曲第3番《オルガン付き》では澄明な響きを聴くことができました。長年続いたそのコンビも、2002年に呆気なく解消され、モントリオール交響楽団はシェフのいない状態が続いていました。2006年、ケント・ナガノが音楽監督に就任し、今回は日本へのお披露目公演とも言えるもので、時空やイマジネーションを超えた「自然」、それと「愛」の音楽が日本公演のプログラムに組まれました。名古屋公演では、時空を超える普遍的な「愛」を捉えた作品として、ベルリオーズの《幻想交響曲》、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》の愛のストーリー、そして最も情熱的で魅惑的な踊りをテーマとしたラヴェルの《ボレロ》というプログラムでした。



<モントリオール交響楽団の本番前の音出しは本格的?>


7〜8分前にホールに入ると、ステージにはオーケストラメンバーの6〜7割が揃い、音出しに余念がありません。ヴァイオリンを始め、弦楽器、木管、金管と各自でいろんな音を出していました。ティンパニは2組並んで音を出していました。プログラム後半の「ボレロ」のメロディーが聞こえてくるかと思えば、テューバは幻想交響曲第5楽章の音階を吹いていました。驚いたのはシンバルまでバシャーンと鳴らしていたことで、本番前のチューニングの域を完全に越えていました。楽員が増えるにつれ、練習の音は増していき、騒々しいばかりなのですが、本番に向けて気分は高まります。



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<幻想交響曲;作曲の経過、構成と内容>


パリ音楽院の学生だったベルリオーズは1827年9月、イギリスから来演したシェークスピア劇団の『ハムレット』を観て「真の偉大さとは何か、真の美とは、また真の劇的真理とは何かを知った。」と、その感動を語っています。また、その時の上演でオフェーリアを演じた人気女優ハリエット・スミッソンにベルリオーズは「想像力と心情に強烈な感動」を与えられました。そこから彼はハリエットに片思いの恋を寄せたのですが、相手にされませんでした。いつしか恋の思いの裏返しで、憎悪の感情を抱いたベルリオーズは、無名の一音楽家が有名女優の気を引くために大規模な楽曲を作曲し、それを彼女の面前で演奏したいという願望に取りつかれました。その思いから、作品の中で復讐を企てようとしましたが、一方で身近にいる女性ピアニストのマリー・モークに恋をし、婚約の申し込みをしています。結局、マリーの母親に反対され、婚約は破棄されます。逆上したベルリオーズは一時、殺害計画を実行するところでしたが、途中で止めます。幻想交響曲の作曲は彼のこの奇妙な恋の期間に重なって進行し、1930年12月に初演されました。そして1932年の再演時には、ハリエットが会場に姿を現わしましたが、彼女は既に役者としての盛りを過ぎ、多額の借金を背負っていました。ベルリオーズの恋は再燃し、2人は1833年に結婚することになります。しかし性格の不一致による2人の溝は広がり、10年以上別居生活の後、ハリエットは亡くなってしまいます。

〔第1楽章〕夢想、情熱(ラルゴ〜アレグロ)
長いラルゴの序奏を持ったソナタ形式です。序奏は若い芸術家が、まだ愛する女性に巡り会う前の不安や憧憬を表しています。木管に導かれ第1バイオリンが弱々しく憂鬱な旋律が途切れながら奏されます。少し活気づいて興奮した状態を表した後、冒頭の憂鬱な旋律が再び現れますが、ホルンが響いた後、激しく叩きつけるような主部になります。フルートとバイオリンによるゆっくりした旋律が恋人を表す《イデー・フィクス(固定楽想)》と呼ばれていて、形を変えて何度か出てきます。恋する女性に対する激しい愛の苦悩による狂乱の状態が描かれています。劇的な展開部と再現部を経て、最後は諦めたかのように静かに終わります。

〔第2楽章〕舞踏会(アレグロ・ノン・トロッポ)
若い芸術家が舞踏会のざわめきの中で、恋する女性の姿を見かける様子が描写されています。作曲当時、交響曲にワルツを入れることは前例のないことでした。冒頭では、弦楽器のトレモロやハープの装飾的な音型により人々のざわめきと賑わいが描かれます。やがて楽しげなワルツの旋律が始まり、絶頂に達した時、フルートとオーボエが変化させた《イデー・フィクス(固定楽想)》を奏し、恋する女性が踊っている様子を表しますが、それも人々のざわめきの中にかき消され、ワルツが続きます。もう一度、姿が見えますが、急激なコーダの興奮により、かき消され華やかに終わります。

〔第3楽章〕田園の風景(アダージョ)
ある夏の夕方、2人の牧童の吹く笛の音が、彼方から聞こえてきます。イングリッシュホルンの音が、舞台の袖の奥から聞こえてきて、オーボエとの掛け合いが始まり、ビオラのトレモロによって、夕闇が迫る様子が描かれます。田園的な旋律がフルートとバイオリンにより奏され、鳥の鳴き声も聞かれます。若い芸術家はかすかな希望を持って、恋する女性のことを思い出しますが、不安に苛まれます。恋する女性の《イデー・フィクス(固定楽想)》が現れ、低音弦楽器で示される不安はまもなく静まり、クラリネットが穏やかな旋律を吹きます。再び不安感が襲い、田園的な主旋律が断片的に絡んで行きます。イングリッシュホルンの音が聞こえますが、返答はなく、遠くに雷が聞こえます。ここは4人の奏者が1つずつティンパニを叩いて、この雷鳴を表します。雷鳴が静まると、静寂と孤独の雰囲気のうちに終わります。

〔第4楽章〕断頭台への行進(アレグロ・ノン・トロッポ)
夢の中で若い芸術家は、恋する女性を殺し、死刑を宣告され、断頭台に連れて行かれます。不気味な弦とティンパニの連打に乗って、ホルンが重々しい行進の様子を表します。チェロとコントラバスに決然とした旋律が現れ、ファゴットがこれに絡みます。行進は次第に力を増し、フルオーケストラにより堂々とした主題が奏されます。断頭台において、ふと恋する女性の《イデー・フィクス(固定楽想)》がクラリネットで現れた途端、金管の咆哮により描写されたギロチンの一撃によって吹き飛ばされます。そして弦楽器によるピチカートが首が転がり落ちる様子をリアルに表わしています。最後は小太鼓の連打の中、荒々しく終わります。

〔第5楽章〕ワルプルギスの夜の夢(アレグロ)
ゲーテの『ファウスト』から着想されたものです。ブロッケンの山中における魔女たちの夜の宴で、若い芸術家は既に死んだ自分が葬られるのに列席し、集まった怪物や魔物たちとともに、身の毛もよだつ恐ろしい魔女の踊りに見入っています。まず弦楽器が不気味な音型を奏し、フルートやホルンが鶏の鳴き声を模倣します。そこにクラリネットによって恋する女性の《イデー・フィクス(固定楽想)》が奏されますが、かつての気品は失われ、軽薄な旋律に変わっています。フルオーケストラによる激しい咆哮があり、今度は小クラリネットがさらに軽薄の度合いを増し、うらぶれはてた恋する女性を描写します。次第に楽器が加わってきて、魔女たちの祝宴となりますが、弔いの鐘が鳴り、2本のファゴットと2本のテューバにより《怒りの日》が重々しく奏されます。次に魔女の踊りを表す急速なロンドが弦楽器から始まり、発展して一大フーガとなります。《怒りの日》は変形され、ロンドは次第に発展し、弦によるロンド主題と木管と金管による《怒りの日》が同時に奏され不気味な世界が形作られます。続いて弦を弓の背で打つ不気味なコル・ニーニョ奏法となり、最後は奔放で狂乱のうちに曲は盛り上がって終わります。



<幻想交響曲に出てくる楽器を観察。凄い突進力に圧倒される!>


弦楽器は第1ヴァイオリン16、第2ヴァイオリン14、ヴィオラ10、チェロ10、コントラバス9、木管楽器はフルート3、ピッコロ1、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン1、クラリネット3、バス・クラリネット1、ファゴット2、金管楽器はホルン5、トランペット2、トロンボーン3、打楽器はティンパニ2組、大太鼓2、シンバル、トライアングル、ドラ、ハープ2とステージは溢れんばかりとなりました。コンサートマスターが現れ、間をあまり置かずにケント・ナガノが登場しました。幻想交響曲の第1楽章は少し遅めのテンポで始まりました。弦楽器が加わってきて、その数は多いのですが、よく揃っていて美しい音でした。冒頭の低音はコントラバスの音だとばかり思っていたのですが、これがチェロだけだったことを演奏される様子を見て初めて知りました。その後でチェロにコントラバスが加わって来るんですね。木管楽器ではオーボエのやや細目の音が印象的で、フルート、クラリネット、ファゴットとのハーモニーも抜群でした。第2楽章に入れられた2パートからなるハープは、ベルリオーズの指示によれば、それぞれ2台以上となっていますが、ここでは慣例どおり左側に2台配置されていました。その音は十分大きく聞こえました。第3楽章が出色でした。荒野のわびしさは感じられませんでしたが、様々な楽器が入れ代わり立ち代わり出てきます。イングリッシュホルンの音に応えるようにオーボエが遠くから聞こえます。オーボエは、ステージの裏から吹いているようでした。それから弦楽器のピチカートが思ったより大きく聞こえました。イングリッシュホルンの音に対応し、雷鳴を表すティンパニがどう叩かれるかを3階の左端の一番後ろの席から眺めていました。4人がずらりと並んでいましたが、最初は3人が静かに叩き、2回目は2〜3人と叩く人が増えました。3回目は4人になって強く叩き、4回目は再び3人が弱く叩くのです。見ていて、たいへん興味深い場面でした。第4楽章は金管が全開となり、断頭台でクラリネットがかすれたような音を出し、その後、ギロチンの一撃を表す「バン」という切れ味鋭い大きな音が、この演奏では少し弱めでした。その後のコーダで小太鼓が叩かれるところからは、力のこもった大きな音が聞こえてきました。第3楽章から第5楽章までは間をおかず、続けて演奏されましたが、第5楽章は最後のコーダの突進力が凄いものでした。鐘の音ですが、通常テューブラベルが使われますが、この公演でもそれらしきものが使用されていました。ところが奏者は椅子の上に立って、高いところを叩いていて、甲高い音ではなく、低めの音を出していました。コーダに近いところの大太鼓はベルリオーズの指示どおりティンパニのように横に寝かして、2人が2台を(楽譜上では「大太鼓」は単数形のようですが‥)叩いていました。大太鼓とともにティンパニも2人が力強く叩き、金管が吠えて迫力満点でした。以前、ハルレ管弦楽団で聴いた時の前へ突き進むようなテンポが再現され、体中が熱くなりました。オーケストラが凄い勢いで突っ走って、完全に圧倒されました。



<ワーグナーの禁じられた愛から生まれた『トリスタンとイゾルデ』>


中世の物語に基づく騎士トリスタンとアイルランドの女王イゾルデとの禁じられた愛の物語を描いた楽劇で、1859年に完成し、1865年にミュンヘンで初演されました。ワーグナーは裕福な商人のウ゛ェ−ゼンドンク家の世話になっていましたが、彼はその家の若妻マティルデと愛し合うようになりました。この歌劇は、マティルデとの恋の結晶として生み出されたと言われています。この管弦楽曲は第1幕の前奏曲と第3幕第3場でイゾルデが歌う《愛の死》(ワーグナー自身が管弦楽用に編曲)を結び付けたもので、1860年1月と2月にパリで自作の演奏会を開いた際にオペラの予告編の形で演奏されました。前奏曲はチェロにより奏される「憧憬」の主題で始まり、「愛の眼差し」、「愛の魔酒」、「愛の法悦」と主題が変わりながら、愛の喜びと官能美を神秘的な雰囲気で歌い上げ溶け合って行きます。《愛の死》は永遠の愛を信じ、眠りにつくイゾルデの姿が描かれます。半音階的旋律と半音階的和声が多用され、無限の音楽が産み出され、恍惚、忘我の境地に至るのです。



<整然とした「トリスタンとイゾルデ」の《前奏曲と愛の死》に物足りなさ‥>


休憩があったとはいえ、幻想交響曲の興奮がまだ冷めやらないまま「トリスタンとイゾルデ」の《前奏曲と愛の死》が静かに始まりました。弦楽器は整然としていて、冷たくはないのですが、切々とした感情は抑えられていて、物足りなさを感じました。最後まで官能的な響きは聴かれず、指揮者の志向とともにモントリオール交響楽団の音の響きにその原因があるのかなとも思いました。コントラバスに代表されるように深々とした重厚な響きは聴かれず、弦楽器には粘っこさがなくサラッとした感じなのです。それとケント・ナガノは、時空を超える普遍的な「愛」を捉えた作品を並べたというのですが、この「トリスタンとイゾルデ」については、SINFONAIRの管理人も言われるように、プログラムの中では異質な感じが否めません。



<《ボレロ》のトリックを解明すると‥>


管弦楽曲で最も人気がある《ボレロ》は80年前の1928年、ラヴェル53歳の円熟期に作られたバレエ音楽で、同年11月20日に初演されました。ボレロというのは元来スペインの民族舞曲ですが、ラヴェルの《ボレロ》は、その倍もテンポが遅く、リズムのパターンも違います。曲はリズム、拍子、テンポがはじめから終わりまで変わりません。ラヴェルが「この曲にはコントラストがない。演奏方法以外、何の創意もありません。」と述べていますが、どの部分も緻密に作られていて、いろんなトリックが仕掛けられています。

T.リズムの謎
この曲の最初から最後まで1小節たりとも休みがないのが小太鼓です。極限のピアニッシモで開始され、あの単調なリズム・パターンを繰り返す15分間、少しずつクレッシェンドし、徐々に音を大きくしていかないといけません。そのため小太鼓の隅っこから小さな音で叩き始め、音楽が進行するに従って、小太鼓の中央で強く叩かなくてはいけません。すべての楽器の演奏に気を配りながら小太鼓の音量を調整していかなくてはならず、全体を牽引して行く重要な役目を担っています。340小節のうち、338小節を同じリズムで延々と叩き続けた後、最後の2小節だけが違うリズムになります。

U.メロディーの謎
ラウ゛ェルはこう語っています。「このメロディーには、どこかしつこさがあると思いませんか?私はこのメロディーを全く展開せず、何回も何回も繰り返すつもりです。」このメロディーはAとBの2つあり、Aメロディーはハ長調でピアノの白鍵だけで奏でられ、落ち着いたところがあります。Bメロディーはハ長調から外れ、ピアノの黒鍵も弾かれ、聴き手を不安定な気持ちにさせます。このAメロディーとBメロディーが交互に奏でられることにより、落ち着かせたり不安にさせたりして感情を動かすというわけです。

V.《ボレロ》の構成と楽器(登場順)
@ フルート・ソロによるAメロディー:フルートの限界ぎりぎりの低音域の演奏により漂うような柔らかな音が響きます。
A クラリネット・ソロによるAメロディー:クラリネット本来のやさしい音色が奏でられます。
B ファゴット・ソロによるBメロディー:ファゴット最高音域による演奏は憂いを秘めた音を作り出します。
C 小クラリネットによるBメロディー:クラリネットより一回り小さく、鋭利でエキゾチックな音色を響かせます。
D オーボエ・ダモーレによるAメロディー:18世紀に流行った古楽器で、柔らかい音色が特徴です。
E トランペット、フルートソロによるAメロディー:弱音器を付けたトランペットが芯のある音を響かせ、そのトランペットの1オクターブ上でフルートのメロディーが重なり音に輝きを与えています。
F テナーサックスによる Bメロディー:テナーサックスがオーケストラに加わる機会は極めて少ないのですが、《ボレロ》を作曲する直前にアメリカを訪れたラヴェルがジャズの影響を受けたのでは‥と言われています。
G ソプラノサックスによるBメロディー:クラリネットかと思うような音色が響きます。
H ホルンとピッコロによるAメロディー:パイプオルガンのような不思議な音ですが、ホルンがハ長調を、2本のピッコロがそれぞれト長調とホ長調を吹いて倍音効果を狙い、これに薄くチェレスタがハ長調で被せられ、絶妙な音作りがなされています。
I 複数の管楽器によるAメロディー:バックではヴィオラがピチカートによりリズムを刻みます。
J トロンボーンによるBメロディー:「ボレロ」最大の難関で、目隠しをして聴いたらホルンかと思ってしまいます。トロンボーンとしては音域が1オクターブ高く、つややかで甘い音色が求められるところです。トロンボーン奏者にとっては緊張と重圧を強いられ、完璧に吹くのは至難の技と言われています。
K 木管楽器群によるBメロディー:木管の楽器の数が増え、豊かで厚みのあるメロディーとなります。
L ヴァイオリン群によるAメロディーとBメロディー:ここで初めて第1ヴァイオリンがAメロディーを奏でます。2回目のAメロディーは響きが厚くなり、次にBメロディーが2回繰り返されます。ティンパニも加わり、迫力が次第に出てきます。
M 金管、木管、弦楽器すべてがAメロディーとBメロディーを2回ずつ奏でます。
N トランペットが鳴り、金管にffの指示が与えられ、小太鼓奏者は2人になり、次第に重量感あふれる音色が重なり合って、音量も音の厚みもこれ以上増やすことができなくなります。その時‥
O ハ長調から一番遠い調のホ長調へ意表をつく転調(その当時はこうした平行移動はタブーでした‥)が行われ、絶頂を極めて、曲は突然のフィニッシュを迎えるのです。



<機能性を発揮したモントリオール交響楽団の《ボレロ》>


右手奥に小太鼓奏者が2人配置され、指揮者に近い奏者が曲の最初から最後までリズムを取る役割を与えられています。3階の私の席からは、今鳴っている楽器がどこにいるのかはっきりわかりませんでした。モントリオール交響楽団はその機能性を発揮し、木管、金管ともに安定した演奏を繰り広げました。トランペットは上手いなと思いました。曲が進むにつれ、バイオリン群が加わり、チェロ、コントラバスが加わってからの厚みのある響きはすばらしいものでした。ティンパニはメリハリのあるはっきりした音で、最後は、大太鼓とシンバルがクライマックスを築きます。しかしながらケント・ナガノは、「幻想交響曲」の時もそうでしたが、シンバルを思いきり大きな音では鳴らしませんでした。華麗なコーダに、盛大な拍手が沸き上がり、ケント・ナガノは何度もステージに現れ、はじめに立たせたのは金管奏者でした。もちろん小太鼓を讃えて立たせた後、ホルンソロを立たせ、ホルン群、木管楽器奏者全員そして、弦楽器奏者全員を立たせました。



<アンコールは「日本の春」に相応しい曲と定番の‥>


盛大な拍手はなり止まず、ケント・ナガノは「ありがとうございます。‥バリエーション‥さくら」と日本語と英語でしゃべり、アンコールが始まりました。《さくらさくら》のメロディーが、弦楽器により奏され、ドヴォルザークの「新世界から」の第2楽章に出てくるように、指揮者の回りの弦楽器だけが静かにメロディーを弾き、他の弦楽器はその伴奏に回っていました。木管、金管も加わって盛り上がり、映画音楽風になった後、最後は静かに終わりました。桜の満開は過ぎていましたが、日本の春の演奏会での挨拶がわりのアンコールといったところでしょうか。その拍手が続く中、指揮台に上がり、すぐに「ジャン ジャン ジャン…」と鳴りだしたメロディーはおなじみのビゼー「アルルの女」から《ファランドール》でした。このアンコールの定番をキビキビした演奏で盛り上げ、大喝采を浴びていました。




<近来稀にみる演奏だった「幻想交響曲」がメインプログラムだったならば‥>


ケント・ナガノとモントリオール交響楽団が標題性のあるプログラムを組んだ今回の来日公演は、優れた演奏水準を誇って来たカナダのオーケストラが、シャルル・デュトアとの決別後の空白を取り戻し、新たな時代に向かっていく勢いを感じました。ただ、その標題性のある曲を作曲年代順に並べて演奏したことには不満が残ります。近来稀にみる演奏だった「幻想交響曲」が前半ではなく、後半のメインプログラムとして組まれていたならば、その感興はさらに高まったのではないでしょうか。



参考にしたCD等

♪ ベルリオーズ: 幻想交響曲

☆ アンドレ・クリュイタンス(指揮)パリ音楽院管弦楽団
[Altus ALT-003](1964年5月10日ライブ録音、東京文化会館)
☆ シャルル・ミュンシュ(指揮)パリ管弦楽団
[EMI TOCE-59008](1967年10月23〜26日録音、サル・ワグラム、パリ)
☆ アルヴィド・ヤンソンス(指揮)レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
[ICONE ICN-9421-2](1971年4月12日ライブ録音、レニングラード・フィルハーモニー大ホール)
〔クリュイタンス盤〕第1〜3楽章は、木管や弦が瀟洒で香るような雰囲気を醸し出し、今ではこのような演奏はもう聴けなくなってしまいました。そして第4、5楽章では打楽器の強打など壮絶な迫力により聴く者を興奮させます。こんな凄い実演が1960年代前半の日本で聴けたんですね。
〔ミュンシュ盤〕幻想交響曲の定盤中の定盤で、ベルリオーズの生涯そのままに激しい情熱に満ち溢れ、各場面を目の前で見ているかのような迫真の演奏です。ミュンシュ率いる新生パリ管弦楽団が華々しく誕生して、この曲のレコードが発売され、ワクワクして聴いた時のことが想い起こされます。
〔アルヴィド・ヤンソンス盤〕マリス・ヤンソンスの父の情熱溢れる指揮の下、当時、一世を風靡したレニングラード・フィルの重厚で厚みのある弦楽器と力強い金管、打楽器の響きが最大限引き出された演奏に圧倒されてしまいます。


♪ ワーグナー: 「トリスタンとイゾルデ」から《前奏曲と愛の死》


☆ ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
[DG 423 613-2](1987年8月ライブ録音、ザルツブルク祝祭劇場大ホール)
☆ クリスチャン・ティーレマン(指揮)フィラデルフィア管弦楽団
[DG 453 485-2](1997年4月録音、コリングスウッド、ニュージャージー)
〔カラヤン盤〕ザルツブルク音楽祭のライブ録音で、ウィーン・フィルから艶めかしいまでの響きを引き出し聴かせます。《愛の死》ではジェシー・ノーマンが歌っていますが、その豊かな声量にオーケストラが柔らかく絶妙な音色で応えています。
〔ティーレマン盤〕フィラデルフィア管弦楽団がグラモフォンレーベルで登場するとは、昔日の感があります。古きドイツのスタイルを求めるティーレマンは、第1ヴァイオリンを左側、第2ヴァイオリンは右側に配置して、豊潤な音色を誇るオーケストラから精緻な響きを引き出しています。


♪ ラヴェル: 「ボレロ」


☆ アンドレ・クリュイタンス(指揮)パリ音楽院管弦楽団
[EMI CE20-5419・20](1962年9月録音、サル・ワグラム、パリ)
☆ シャルル・ミュンシュ(指揮)パリ管弦楽団
[EMI CMS 7 69957 2](1968年9月録音、サル・ワグラム、パリ)
〔クリュイタンス盤〕ラヴェルが意図した古今の楽器を駆使し、そのメロディーの衣装変えを見事に示したものです。当時のパリ音楽院管弦楽団でしか聴くことができない管楽器の音色は魅力的です。Bのファゴット・ソロがBメロディーを高音で奏でるところは、まるでサックスのような甘い響きが聴こえてきます。最も難しいJのトロンボーンによるBメロディーのすばらしい演奏も聴き逃せません。
〔ミュンシュ盤〕ややゆっくりしたテンポで始まり、管楽器のソロも少し弱めに吹かれるのですが、曲が進むにつれ微妙にテンポが変化し、音量も徐々に増して行きます。Lのヴァイオリン群によるAメロディーとBメロディーの演奏辺りからだんだん熱を帯びて来て、ラストに向けた盛り上がりは圧巻です。



† ラヴェル「ボレロ」;NHKBS第2テレビ「名曲探偵アマデウス」(2008年4月6日 23:00〜23:45)

 
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